I c a n n ' t s t a n d i t .
「あっ女の子がいるっ!?」
「あぁ、お前昼間いなかったもんなぁ」食堂に入ってきた隊士が神楽を見つけて色めきだつ。
どんぶりに盛られたご飯をもりもり食べているのを除かずとも男ばかりのここでは少女も聖地だ。「おかわりー」
「神楽ちゃん食べるね…何かいる?」
「たくあんで十分アル」炊飯器を抱えた山崎は苦笑しながらどんぶりにご飯をよそう。
「か〜っ、いい食いっぷりだなぁ」
「お前らも人ばっか見てないで食うヨロシ」
「いやなんか見てるだけで腹いっぱい」
「副長〜飼っちゃ駄目ですかこの子」
「食費修理費その他雑費全てお前等が出すなら飼う場所ぐらいは作ってやる」
「…食費修理費以外なら…」
「他に何払うモンがあるってんだ」少し離れて神楽を見ていた沖田がふいに近付いてきた。
神楽の後ろで立ち止まり、脇に腕を通して神楽を抱き上げる。「わっ」
「山崎ィ釜とたくあん」
「えっ、あ、はいっ」
「ちょっと、何するネ!」
「あんたは俺が預かったんでさァ、好きにさせてもらいやすぜ」とりあえずご飯があれば満足なのか、神楽はどんぶりを持ったまま大人しく沖田に運ばれていく。山崎が炊飯器を抱えてそのあとを追った。
「…お…沖田隊長…?」
「…えっ、副長、そうなんスか!?」
「しっ…しらねぇよ!」
「でもあの様子じゃ片思いか…」
「あの沖田隊長が恋ね〜…」
「あの人って女知ってんスかね」
「さぁ…」
「…夜一杯誘ってもきたことないよなぁ」
「年下好き?」
「…だから…お前らガキを誘うなっつってんだろうがよ…」
*
「着れない」
「…」湯上がりの神楽に沖田は頭をかいた。残念。
「浴衣の下に何か着るのは反則ですぜ」
「銀ちゃんがダメって」
「…」沖田は神楽に近づいて浴衣を着せてやる。ぎゅっと帯をしっかりしめ て、自分への戒めのつもり。
布団が敷かれているのをみて神楽はそこに寝転がる。「眠いアルー」
「言っときやすが布団は一組しかありやせんぜ」
「…」ぱんと布団を叩いて沖田は神楽を見た。神楽は顔をしかめて視線を返す。
「じゃあどうするアル」
「一緒に寝ますかィ」
「非常識な男ネ。普通客に譲るアル」
「あんたがお客なら譲りまさァ。あんたはただの預かりものですぜ」
「…」
「心配しなくたって手は出しやせん。嫌だってんなら廊下で出歯亀してる奴らのとこに行きなせェ」廊下でびくりと気配がした。沖田は溜息を吐く。
「…ここでいいアル。…けど」
「ん?」
「…殺してしまうかもしれないヨ」
「…」神楽は自分の両手を見た。皮膚の下には夜兎の血が流れている。
「誰があんたに殺されるって?」
「…」
「俺はあんたに殺されるつもりはありやせんぜ」
「…そこまで言うなら一緒に寝てやるヨ」
「蹴らねぇで下せぇよ」
「寝相はいいアル」
「信じますぜ」ふたりで布団に潜り込んで、なんだか照れくさくて神楽は笑って布団を引き上げる。
「枕は?」
「だからないって言いやしたぜ」
「枕がないと落ち着かないアル」
「…」
*
(…腕痛い)
寝入った神楽を転がして引きつりそうな腕を引き寄せた。迂闊に腕枕などするものではないと学習する。
熟睡した様子の神楽を見て呆れた。こっちは男だと言うのに。「…俺も人間だってことですかねェ」
神楽に背を向けて寝る体勢に入る。慣れない人の気配に違和感。だけど嫌な感じはしない。
腰に何か巻き付いてきて咄嗟に半分起き上がった。振り返れば神楽の腕が巻き付いている。「……」
軽く腕を叩いてやるが、熟睡した神楽に反応はない。
何か呟いたのでよく聞いてみれば、「さだはるー」
「……」誰だそれは。
聞いたことがある名前だがピンとこない。
少し考えて、誰だか知らないが役得ということで寝ようと思う。
が。
徐々に神楽の手に加わる力が強くなっていく。「…っ…!」
神楽の腕から抜け出して沖田は布団から飛び出した。
何も気付かずに神楽はぐっすりと眠っている。思わず腹を撫でつつ沖田は神楽をしばらく見ていた。
*
「…?」
目が覚めて混乱する神楽は首を傾げる。
何故沖田は畳で寝ているのか。おまけに夜までアイマスクとは変わった男だ。
取り敢えず沖田が寝ている間に着替えてしまい、外を見てみるがまだ薄暗い。「…暇アル」
最近定春の散歩を早朝にしていたのでその癖で目が覚めたんだろう。
定春はどうしてるだろうか。彼はひとりで留守番だ。
目は妙に冴えてしまい、再び寝れる気配もない。「……」
そろそろと眠る沖田に近付いた。
アイマスクに手を伸ばすと、逆に顔面を叩かれる。「っ!」
「寝込みを襲うならもっと色っぽい女になって下せェ」
「起きてたアルか」
「お陰様で生着替ッ」顔面を叩き返され沖田は呻いた。起きあがりかけたところで畳に沈む。
「ッつ〜…」
「金払え!」
「金かけられるような立派なモン見せてから言って下せェ」もう一発殴ろうとする神楽の手を止めて、沖田は神楽にアイマスクをかける。
「何、」
「着替えるから待って下せェ。見たいなら別にいいですぜ」
「遠慮するアル」よくこんなアイマスクなんて付けてられるなと神楽は顔をしかめる。
衣擦れの音を聞きながら、外からざあざあと音がするのに気付く。「雨?」
「…あぁ、今日は風が強いみたいだ。雨じゃなくて庭の木の音でさァ」
「ふーん」
「あんたのとこは聞こえませんか」
「木なんか近くにないアルヨ」
「そうですかィ」
「もういいアルか〜?」
「あと少し」
「遅いな!」
「口の減らねェ女だ」ぎ、と微かに足音。
外の音に耳を澄ませている神楽の頭に何か触れた。それを考える間もなくぐっと口が塞がれる。ガチンと一瞬痛み。「んッ!?」
人の体温だ。
手を伸ばせば人の体に触れる。押し返そうとするのを強い力で抱きすくめられた。恐怖が先に立った。
無理矢理押し返してアイマスクを外した。真剣な沖田の表情が目に飛び込む。「…何するアル」
「悪いのはあんたでさァ」
standは我慢と言う意味です。英語やってて思いついた話…
やはし続く。040825