A.


目が覚めると大変なことになっていた。血の気が引くのを感じながら、土方はゆっくりベッドを降りる。それから目が離せないせいで机にぶつかり、その場に腰を落とした。
────なんてこった。いっそのこと何も覚えてないならよいものを、リアルな記憶はしっかりある。…ベッドの上のそれ、人の塊。丸まった背中の主はわかってる。ずっとずっと、焦がれた。

「……えぇ〜〜〜…」

嘘だろ。頭を抱えてうつむいた目に飛び込んだのは、あからさまな行為の残骸。爆弾であるかのように慎重につまみ、ゴミ箱へ落とす。…しかし役者がそこに残っているのでは、証拠隠滅も出来やしない。土方の気も知らず、後ろ姿は規則的に寝息をたてる。

(…嘘ォ…しかも俺無理矢理っぽくなかったか…?)

ゆっくり昨日を思い出す。沖田やら神楽やらが大騒ぎしながら大勢でうちに押し掛けられ、わけのわからぬうちに誰かが酒を持ち込んで宴会になった。とは言え妙なところばかり真面目な連中は門限にはきっちり帰っていき、門限のないこいつが片付けを手伝うと残っていて。今気付けば自分も若干酒が残っているようだがそれどころではない。

(…そんで…えぇ〜…)

何度思い返してもあれは自分が悪い。向こうも酔っていたとは言え、確かな抵抗だってこの腕は覚えている。

(ありえねぇ〜〜…)

そのとき目覚まし時計が鳴り出した。心臓が一気に跳ね上がり、死ぬ、と確信しながら慌てて時計を探す。ひとりで起きれるようにと親が寄越した強力な目覚ましは部屋中に音を響かせ、ベッドの塊が動き出して更に焦った。悪いことにベッドの下に入り込んでいて、やっと音を止めた頃にはベッドの塊は起きあがる。思わず悲鳴をこぼした。

「うー、今日はなんスか…ひったくり?酔っぱらい?まさか火事…あれ?何処?」

シーツをかぶって起きた塊は、しばらく部屋を見回して動きを止める。頭にかかったシーツを落として振り返る。一緒に露わになる肌。

「────ひっ…土方さん!」
「ッ!」
「お、俺ッ…」
「あっ…」
「「ごめんなさいッ!」」

ふたりの声がハモった。声と同時に土下座した双方はゆっくり顔を上げる。

「…え?」
「俺また酔っぱらったんですね!?あぁ〜〜ッ…ほんとにごめんなさい!俺酔うと脱ぐらしいんです!しかも何も覚えてなくてッ」
「え、いや」
「もーほんっとすんません!ご迷惑おかけしました!」
「待てよ、…なんも覚えてねぇの?」
「ハァ…お、俺、なんかしましたか…?」
「……」

何もしてはいないが、本当に何をされたかも覚えてないのだろうか。それとも自分は何もしていないのだろうか。全ては夢であったとでも?

(…夢見ながらゴム使ってオナニー…?)

土方は思わず首を降る。あり得ない。それに確かに覚えているのだ、酔って記憶を飛ばしたことはない。あの甘い声も熱い体も、夢だなんて思えなかった。

「────…」

山崎が覚えてないにしても、自分は謝るべきだろう。しかし山崎が衣類を探して着替えるのを見ながら、土方はぐっと唇を噛んだ。考えたのは失う後悔。己の中のエゴイズムがいきり立つ。




  *




「俺 手洗ってくる」

こぼれたクリームで手の汚れた山崎は屋上を出ていった。残ったのは土方と高杉のふたり。出来れば高杉に構いたくない土方は、体ごと逸らして弁当をつついた。母親の気合いの入った弁当はお重に詰められ、毎度少なくとも一段は神楽や沖田に奪われる。

「なぁ」
「…」

パンにかじりつきながら、高杉が背中に体重をかけてくる。口が塞がっているふりをして返事はしない。

「お前いつからザキのこと好きなわけ?」
「…」
「あんなどんくさい奴」
「…幼なじみだろ」
「切りたくても切れねぇ縁ってだけだ」
「はぁ?」
「なぁ、どうなんだよ」
「…お前には言わない」
「ザキにも言えねえ癖に」
「ッ…言う気なんかねぇんだよッ!」
「へぇ…つまんねー男」
「お前を楽しませる気もさっぱりねぇ」

高杉の笑った気配がする。ここで取り乱したら負けだ。ゆっくり呼吸をしてきんぴらを口にする。

「ひとつ、ヤマザキクンの幼なじみからアドバイス」
「は?」
「あいつ 男知ってんぜ」
「ッ──────」

衝撃に喉を詰まらせ、一瞬硬直してむせかえった。その反応に高杉はゲラゲラ笑って腹を抱える。笑い事ではない。…高杉が知っていると言うことは、山崎もやはり覚えていたと言うことか。すっと血の気が引いた。

「ま、不特定多数だけどな」
「…え?」
「ただいまー」

聞き返そうとしたタイミングで山崎が帰ってきて土方は口を閉じた。あれ、仲良しじゃん。山崎の声にふたりで揃って否定する。

「むっちゃんがお菓子くれた」
「あのドブスが何だって?」
「お菓子くれた。つかドブスってさぁ…むっちゃん美人じゃん」
「あぁ、おかしくなったって聞こえた。ドブスはドブスだろうが」
「もー。お土産だって」

はいどうぞ、と箱ごと差し出してくるのをひとつ摘む。さっきまでの会話が会話なだけに、山崎を直視出来ない。

(…どういう意味だ…?)
「あのドブス何しに帰ってきたんだ?次はアメリカって言ってたぞ」
「文化祭あるから帰ってきたんだって。副部長が抜けるわけにはいかないからって」
「はっ、真面目なこった」
「…陸奥って何部だ?」
「むっちゃんは華道部です」
「……」
「内容的には茶華道らしいですけど」
「にっあわねぇ…」
「えー、そうですかー?俺もちょっと教えてもらったけど難しいですね」

想像してみようにもうまくいかなかった。陸奥と和服がつながらない。

「…そういや山崎、お前最近部活こねぇな」
「あ、実は去年退部してました」
「…ハァッ!?」
「先生が来てもいいって言ってくれてたから時々は顔出してたんですけど、厚かましいかなと思って」
「なっ…何で退部なんか、」
「えー、ほら俺そんなにうまくないし。お金も時間もないんで」
「…聞いてねぇよ…一言ぐらい相談してくれりゃ…」
「え、いや…あの頃何故か土方さん俺のこと避けてたじゃないですか」
「…あ…あの頃か…別に、避けてたわけじゃねぇけどよ…」
「…何?いつ?」
「杉くんは学校来てなかった」
「あぁ、じゃあ知らねぇ」

指先を払って、高杉は煙草を取り出しながら立ち上がった。グランドからも見えない位置に移動してから火をつける。案外せこい奴だ。

「次何でしたっけー」
「あー、政経?」
「うお、寝そう。っつか教科書消えたなぁ」
「消えた?」
「こないだテスト期間のとき持って帰ったんスけど、そっからどっかいっちゃって」
「お前な…」
「まぁいいか、政経だし」
「適当だな…」
「政治も経済も俺の知らないとこで動いてるしなぁ。あ、経済はそこそこ見てるかな」
「…また部活こいよ。お前と真剣にやりたい」
「ははっ、やですよ、土方さん強いから」
「…」




  *




知ってやしたぜ、と沖田が飄々として言ってのけて愕然とする。山崎の退部のことだ。近藤は部長であるから一応聞かされてはいたらしいが、何故自分が知らずに沖田が知っているのか。土方が何を考えているか見当がついたのだろう、竹刀の端で土方の頭を叩いて馬鹿ですか、と罵倒する。

「今更何言ってんでィ、ずっと来てなきゃおかしいだろうが。聞いたら教えてくれたぜィ、あんたは気付かなかったんですかィ」
「…」
「ばーか!」
「うっせぇよ!」

げえぇ〜…意味をなさない声を出しながら、土方は防具をつけていく。土方は剣道部の副部長だ。そのこともあって、今まで自分が何故疑問を感じなかったのか急に不思議になった。考えたらわかりそうなことなのに。
────山崎が部活へ顔を出さなくなったのは、やはりあのことを覚えていたからじゃないかと思っていた。嘘をついてなかったことにしたけれど、本当は土方のことが嫌だったのではないかと。
集中力に欠けるので考えるのはやめようと思うのに、気になりだしたら止まらない。結局立ち会った沖田に二度決められた。舌打ちをして面を外す。

「トシ荒れてんなぁ、どうした?」
「どーせ文化祭で浮かれてんでさァ、それとも俺のセーラー服姿に興奮しやしたか」
「誰がするかッ」
「金払えば触らしてやるぜィ」
「お前触るぐらいだった神楽触った方がましだ!」
「ヤダ〜ロリコ〜ン」
「…」

駄目だ。一を言えば百を返す男を、こんな調子じゃ相手に出来ない。

「…近藤さん、悪ィけど先帰るわ」
「疲れたか?テスト後だもんな。文化祭に風邪引いたら大変だし、帰ってゆっくり休め」
「…文化祭はどうでもいいけどよ」

むしろ参加したくない。知らぬ間に決められたコスプレ喫茶、女尊男卑のZ組では、女どものおもちゃにされるのは目に見えてる。

「じゃあお先」

部員から挨拶が帰ってくる。声をかけて更衣室へ戻る途中、焦ったような女子にすれ違い際に引き留められた。

「ど、どうしたの?」
「ちょい、早退」
「あ、大丈夫?」
「ちょっと疲れてるだけ。なんか用?」
「う…ううん!疲れてるなら今度でいい!」
「そうか? じゃあ、お疲れ」

心配されたくないので早々に歩き出して足を早めた。…こんな女だっているのに、どうしてよりにもよって?

(…何で山崎…)

汗をかいた頭を抱えて嘆いた。もう飽きるほど嘆いたのに。




  *




────文化祭の日に勢いあまって告白した。はっきりした返事はもらわなかったが、あれはやんわりと断られたのだろう。桜の木の下のジンクス。山崎はあのとき、ここで告白すると断られると言った。そのまま山崎は行ってしまい、何がなんだかわからない状況だったが、後になってあのジンクスはデタラメだと聞いた。断られると言う話もあるが、成功すると言う話もある。矛盾した噂が多すぎてどれもジンクスとは言えないのだ。山崎は土方などよりよっぽど学校のことに詳しいのだから、それを知らなかったはずがない。だからあえてあのジンクスを選んだのなら拒絶だろう。
からかうネタがなくなったと高杉が残念がっている。思えば土方の思いを知る唯一の人間だったが、ろくなことをしなかった。

「ザキ 何て?まぁあの調子じゃふられたんだろうけど」
「…見てたのかよ」
「ここから、たまたま。あいつ断るのうまいだろ」

土方は黙って桜の木を見おろした。屋上からでもなかなかよく見える。葉を落としつつある桜の木、今ばかりは憎い。所詮八つ当たりだが。高杉は煙草に火をつけながら喉の奥で笑う。

「頼むのもうまいんだぜ。滅多にしねぇけどな」
「…あ〜〜〜…一本」
「…何、ただの優等生クンじゃねぇの。漫画だな」
「うっせぇ」

高杉が笑って煙草を差し出し、わざとらしく丁寧に火をつける。くすぶる先端をしばらく見つめ、煙草をくわえた。

「…馬鹿だな」
「あ?」
「テメェじゃねぇよ、いやテメェも馬鹿だけど。ザキの話」
「…」
「馬鹿だな。幸せはそこにあるのに!」

何かのセリフなのか、妙に演技がかって高杉が言った後笑い出す。寒い寒いと笑いながら呟いて、しゃがみ込んでフェンスに体を預けた。土方も体を返してフェンスにもたれる。深く吸った煙を吐き出した。

「────前に、」
「あん?」
「山崎が、…男を知ってるとか、言ったな」
「あぁ、言ったっけ?聞きたいか?」
「…」
「あいつの母親借金抱えて消えたんだよ。そのツケ。高校生が返せるわけねぇだろ?だからってチャラにする奴らじゃねぇ。最近株価が上昇してんのは女だけじゃねぇみたいだな」
「…」
「同じ借金ならってかまっ娘が出しゃばって全部返したけどな。あいつらは金が入りゃいいから、今は出入りはねぇよ。ザキの就職先は確定したけどな。部活やめたのこの頃じゃねぇの?」
「…そんな」
「…ま、お坊ちゃんにはわかんねぇ話のままで済ましとけよ。今のは忘れろ。話したことバレたらザキがキレる」
「…」

紫煙が風で流れる。吸いたいとも思わない煙草は不味い。手持ち無沙汰にしていると、気付いた高杉が奪っていった。

「────お願いすりゃヤらせてくれんぜ」
「俺はッ!」
「最近あいつ眠り浅いんだ」
「は?」
「ザキとは別件だけどよ、また同じ金貸しがうろついてんだ。なんも言わねぇから俺も言わねぇけど、ありゃ寝不足の顔だな」
「…」
「俺んちに女いるって知ってても来るからな。しゃーねぇからかまっ娘まで一緒に行ってやんだけど」
「…俺にどうしろってんだよ」
「別に?王子役なら土方かな〜と国際会議で決定しただけ」

高杉は空を仰いだ。飛行機雲が空を分断しようとしている。陸奥と坂本がまた外国へ行ったことを思い出した。

「…なぁ、お前、陸奥のこと好きなんじゃないのか」
「あ?何でだよ。俺があいつを好きだとして、何させてぇんだ」
「いや…」
「行くなってみっともなく引き留めるところでも見たいか?」
「…」

茶化して言う高杉の言葉を思わず想像する。ある意味見てみたい気もした。

「…飽きた」
「あ?」
「引き留めんのなんか、飽きたんだよ」
「…高杉?」
「ハッ、うちの親も大概陸奥に劣らぬクソババァだったからな。だからな土方、────テメェにゃわかんねぇ。俺のことも、ザキのことも」
「…お前は何がしたいんだよ」
「それぐらい考えろよ」
王子様、冷やかしの声から目を逸らした。




  *




「じゃーな山崎」
「バイバーイ」

神楽に手を振って、教室を出ていったのを見ながら手を下ろした。教室は空っぽになった。山崎はようやく顔の筋肉を緩め、貼り付いていた笑いを解く。机に置いたジャージに顔を埋めてかき寄せるように布を抱いた。昼間体育でひと汗かいたので少し汗くさいが、どこか安心する。

(…最近昼間もいるんだもんな)

誰だか知らないけどさっさと借金返してくれよ、俺も人のこと言えないけど。喉の奥でうなる。いらいらが募ってくる。世の中が自分の思い通りに行かないことへの憤りだ。落ち着いて、もう少し落ち着いたら帰ろう。今のままここを出たら誰かれ構わず当たり散らしそうだ。
────あの環境で育った子どもがこんな大人しいいい子になるわけないじゃないか。文字より先に覚えたのは媚びる術。笑って穏やかに、怒らず逆らわず取り乱さず隙を見せずに。もう今ではどっちが素なのかわからなくなった。それでも時々顔を出す。世の中は理不尽で不公平。そんなこと嘆く気にもならない。
カタン、とわずかに音がして、山崎は顔を上げる。土方と目が合って、彼が一瞬怯んだ。やべぇ、思って顔を変える。

「あれー、土方さんどうしたんですかこんな時間に」
「…こっちのセリフだ」
「あはは、俺寝ちゃってたみたいですね」
「…」

土方が近付いてくる。足元を確かめるような足取りだ。

「…お前今凄い顔しなかったか?」
「え、どんな顔してました?寝起きなんで」
「…」
「帰るとこですか?」
「…なぁ」
「はい?」
「お前んち行っていい?」
「…え?」
「返事。…俺はあれが返事だと思ってねぇから」
「…じゃあ、はい…今から?」
「お前が帰るときでいい」
「えーと、じゃあ今から、行きますか」
「ん」

山崎が立ち上がる間に土方は鞄を掴んで歩きだしている。机にぶつかりながら慌ててそれを追いかけた。

「ひ、土方さんッ」
「転けんなよ」
「転けたらあんたのせいですよッ!」

階段でやっと追いついて鞄をひったくった。




  *




ガンッと鈍い金属音が何度か響いて、山崎は土方を残し、慌てて階段を駆け上がった。部屋の前に、いかにもな黒いスーツの男がふたり、ドアを蹴りながら罵声を飛ばしている。

「ちょ…ちょっと!何してるんですかッ!」
「あっれ〜?山崎ちゃん?…あーごめんごめん、部屋間違えてたよ。通い慣れた部屋だったから思わず足が向いちゃった」

ふたりがゲラゲラと笑うのを、山崎はぐっと拳を構えて耐えた。黙っておくのがいい。今は借りがあるわけでもないが、騒ぎは起こしたくない。

「山崎?」
(…やべ、土方さん忘れてた…)
「山崎ちゃんのお友達?お金にお困りの際は是非うちに」
「…あー…いや、金なら腐るほど。そちらさんこそ、お金にお困りの際は是非うちへ。頭取呼んでお相手しまし
ょう。どうぞ」
「…」

土方が父親の名刺を差し出す。それを見て表情を変えた男達は、視線を合わせて黙って歩き出した。今度は別の部屋の前で騒ぐのだろう。

「…いいんですか」
「何が」
「関わらない方がよかったと思うんですけど」
「あいつらだって警察と関わりたくねぇだろ」
「…」

山崎は何か言いたげにしながらも部屋の鍵を開けた。一間にトイレと台所があるだけまし、と言った部屋だ。土方にはわからない世界だと言われたら納得はする。

「何もないですけどー、あ、酒しかない」
「は?」
「かまっ娘でいらないって押し付けられるんですよね〜。まぁ体はあったまるんだけど俺酔うと脱ぐからな…」
「最悪じゃねぇか」

部屋へ上がっても装飾品どころか家具も怪しい。服はカーテンレールにかけられていて、部屋にあるのは小さな机と万年床。何故か押入のふすまが壊れたまま置いてある。

「────つーか暖房器具はっ!?」
「え、あずみさんにもらった電気毛布が」
「……」

山崎が指差す万年床。寒ッと思わず口にすると布団を進められた。冗談じゃない。

「なんでこんな…」
「えー、だってそんなに部屋にいないんですよね。学校終わったらミントンしたり神楽ちゃん達と遊んだり、帰ってきたらもうバイトだし。だから寝るだけで」
「…」
「つーかぶっちゃけ最近使ってなかったんでほこりっぽかったらごめんなさい。杉くんちか、かまっ娘で寝てて」
「うち帰るの怖いから?」
「…何でですか?」
「さっきの奴ら」
「…さぁ、どうでしょう。俺も自分の気持ちなんてわかりません」
はい、と山崎が本気で酒を出してぎょっとする。隣に座って山崎は一気にグラスを空にした。
「返事でしたっけ」
「…」
「どうしようかな。気持ちはほんとに嬉しいです」
「…微妙だな」
「でもなぁ、駄目ですよ。俺はこのまま水商売だし、土方さんは将来に必要とされてる」
「そんな理由なら殴るぞ」
「え〜駄目ですか〜?まいったなぁ」

ぐいぐい酒を飲んでいく山崎に心配になってくる。自分で脱ぐと宣言しておいてこの飲みっぷり、誘う気だろうか。気付いた山崎が大丈夫です酔う前にやめますと言った。

「ちょっと待って下さいね、酔って返事なんてふざけてると思うかもしれないけど、素面じゃ本音出ないもんで」
「…」
「俺は、どうしたらいいですかねぇ」

酒をあおる山崎のペースは落ちない。まぁ飲んで下さいよ、山崎が寄りかかってきた。…待て。待て待て。自分はこの辺りを知っている。土方は緊張してくる。このままだと、また…

「…暑くなってきた」
「げっ、ちょい待てッ…────」