パ シ リ
「山崎ィ!」
「はいはいはい!しばしお待ちを!」優先順位は土方・沖田・近藤。山崎は持っていた書類を隣に押しつけ、それを謝って部屋を飛び出した。
バタバタと遠ざかる山崎の足音に、彼は心配しながら書類を繰る。「今の副長だよな」
「山崎最速だったしなァ。山崎の奴、副長に弱みでも握られてんのかな」
「パシリっつか犬みたいだよな〜」
「ご主人様ってか」
「…いやいや、洒落になんねぇよ」
「あぁ…」しかしそんな様子も容易に想像が出来る。隊士ふたりは手を止めて、何となく山崎が出ていった方を見た。
「…でも山崎、時々だるそうにしてんだよな」
「…寝言で副長呼んだりするんだよな、名前で」
「…」
「…」
「…いや、でも山崎って何となくパシリたくなるしさ」
「そ、そう!そんで仕事も出来るもんな!」
「便利なだけだって!」
「だよなァ!」アハハと乾いた笑いの応酬のあと、ふたりはぴたりと笑いをやめる。
「…でも俺、前に夜中なのに山崎が副長の部屋から出てくんの見たことあるんだよな」
「…いやでも、仕事だろ…?あいつ監察だし」
「俺らだって監察だけど夜中に副長と着流し一枚で仕事しねぇだろ」
「…」
「…今副長室かな」
「え、でもやばくねぇ?」
「で、でもよ、山崎がもし…」
「……ねぇって、ないない」
「副長女遊びなくなったし…」
「……」
「…お…俺、確かめてくる!」
「まじかよ!いや…いや、結果がどっちにしろやべぇって!」
「いいや、一度気になったらもう逃げらんねぇ、俺だって監察だ!行ってくる!」
「…死ぬなよ…」
「そんな野暮なこと」
「うぎゃァッ!」ぬっと現れた沖田に二人は跳ね上がる。
「た、た、隊長ッ!」
「覗きなんて野暮だぜィ。ほれ」
「…?」沖田に手渡されたのはイヤホン。彼の手にあるトランシーバーのようなものにつながっている。
「…あの、これ」
「いいから聞いてみなせぇ」
「……」おそるおそるそれを耳に近づけ、…彼はすぐさま隣に回した。蛇か何かでも現れたように、隣の男は体を引く。
「お、なんでィ意気地がねぇ」
「お…お…俺は認めませんッ…!」床に泣き崩れる隊士を笑い、沖田はイヤホンを拾って自分の耳に押しつけた。
「…解説してやろうかィ?」
「「結構です!」」
「土方さんもなかなか人が悪ィ…こりゃ山崎縛られてんな〜」
「縛られてません!」
「チッ」帰ってきた山崎が沖田の手から機械を奪った。
パアッと隊士ふたりは明るくなり、ありがたやと山崎を拝む。大体の事情が読めた山崎は溜息を吐いた。「隊長、くだらないことで遊ぶのやめて下さいよ」
「俺は至って真剣でィ」
「尚悪いです。なくなったと思ってたらまた勝手に持ち出して…」
「キスマーク」
「………」沖田が山崎の首筋を指でつく。場が凍り付いた。硬直した山崎の前で沖田はにやりと笑う。
「土方さんに俺に隠しごとが出来ると思ってんのかィ、って伝えてやれ」
「…」
「あと昼間に盛ってるとこうやってバレやすいぜってな。それじゃ俺ァ真面目に見廻り行ってくらァ」鼻歌でも歌いそうな雰囲気で、沖田は勝ち誇った様子で部屋を出ていく。
残った3人はどぎまぎしながら視線を交わした。山崎がそっと首筋を隠す。「……昨夜女につけられたって言え」
「え、」
「俺達のために言え!」
「……」
…何これ。次のお題とオチが被った…
050519