真 選 組
あのひとをかえして!
殆ど悲鳴のような甲高い声。
山崎は思わず眉を寄せて彼女を見た。「どうしてあの人が真選組に殺されなくちゃいけないの!?」
「…」
「あの人は何も悪いことをしてないのに!」
「…」いいや、あの人は悪い事をした。
貴方に覚悟を決めさせなかった。「山崎行くぞ」
「…はい」土方がライターを擦る音がした。
ゆっくり目を閉じて、彼女を視界から消して、土方の声を耳に残す。しかしそれは直ぐに悲鳴にかき消され。「人殺し!」
「…知ってます」悲しそうに呟いた山崎に彼女は一瞬ためらう。
おかあさん?
かすかな声に、彼女も山崎も、びくりとして顔を上げた。彼女は振り返り、そこに子どもの姿を見つけて急いで駆け寄る。
おかあさん、おとうさんは?
そこに一瞬自分の姿を重ね、山崎はくらりと眩暈がした。
お父さんは死んだよ、母のセリフは記憶から消えない。「お父さんは?」
「…うぅ…」彼女は子どもを抱きしめて体を震わせた。震える肩に、それは自分の母親ではないとはっとする。
「お母さん、…お父さんは?」
「死んだ」
「…」
「君のお父さんは俺が斬った」
「山崎、相手にするな」
「…お父さん」
「君のお父さんは俺の敵だったから、俺が斬った」
「…お父さんを」
「そうだ」
「…おにいちゃん名前は?」
「山崎退」子どもの真摯な瞳に山崎はしっかり視線を返した。
恨むなら恨めばいい、その分君を成長させるかもしれない。母を守る力にもなるだろう。俺を目に焼き付けておけばいい。「帰るぞ」
ぐいと土方に肩を引かれ、山崎は少しためらって母子に背を向けた。
…今日は酷い戦いだった。突発的なため市街地になってしまい、きっと一般の怪我人も出たのだろう。
自分の仕事が至らなかった所為だ。奥歯を噛み締める山崎の手を土方が叩く。「いいのか」
「…真選組に恨み買われるより、俺個人の方がいいでしょう」
「…」
「真選組への恨みは局長への恨みになるから、そんなの嫌です」
「…山崎」
「…これがあの子にとっていいのかは分からないけど」まだ辺りは戦の気配など消えなかった。
硝煙や血の匂い、喧騒や痛みに呻く声。「俺は時々あなたの事が好きでいいのかと迷います」
「…」
「俺は卑怯だ」
「…卑怯に関しちゃ俺も誰もかわんねぇ」
「俺はあの子に殺されるんでしょうか」
「オチオチ殺されてみろ、殺してやるから」
「…はは、変ですよそれ」
「細かいこと気にしてんじゃねぇよ」
「…」俺は死ぬのが怖いです。
パシンとまた手を叩かれた。繋ぐことはない。「怖くていい」
「…副長」
「怖がってろ」恐れるものがないものは強い。だけどそれは同時に脆いものだ。
「…真選組も貴方も俺に守らせて下さいね」
「生意気な」
「…俺やっぱり手伝って帰ります」
「…あぁ」気を付けろよ。
土方の声に山崎は微笑み、そして軽く会釈した。泣き叫ぶ声、生臭い血の匂い。柔らかな日の光と暖かい縁側が欲しかった。
自分が今真選組の隊士であることに後悔はないけれど。(早く平和に なればいいのに)
皮肉にも戦地にて、自分は意外と世界のことが好きだと実感するのだ。
何が書きたかったのかごっちゃに…
040923