仲 良 し

 

「いってらっしゃいあなたー」
「行ってきまーす」

ちゅ!

…最近の子どもって。
見回り中の山崎は何となく照れて小さなカップルに近付いた。
近所の顔見知りの子達だ。もう辺りは薄暗くなっている、帰した方がいいだろう。

「ごきげんよう奥様。仲のよろしいことで」
「あらお客様いらっしゃい」
「どうも。大きくなったら結婚するの?」
「まさか、結婚するならもっとしっかりした人にするわ」
「…」

しゃがむ山崎の斜め後ろで旦那役の少年が奥様の笑顔に青ざめていた。山崎にはフォローの言葉が見つからない。

「…で、でもちゅーって好きな人とするんだよね」
「そうよ、あたし達仲良しだもの」
「な、仲良しかァ〜…」
「お兄ちゃんも仲良しだからちゅーってしてたんでしょ?」
「…え?」
「この間、お祭りの時にしてたじゃない、怖い顔のおじちゃんと」
「…」

怖い顔のおじちゃんとはもしかしなくても我が真選組副長殿のことだろうか。山崎は笑顔のまま硬直する。
誰もいないと思ったのに。殴られるほど確認もしたのに。

「かっ…勘違いじゃないかなっ?」
「だってその服着てたよー」
「きっと俺じゃない誰かだよ、うん」
「え〜…じゃあお兄ちゃんはあのおじちゃん嫌いなの?」
「き、ききっ嫌いなんてそんな!」
「じゃあ好き?」
「す…す…好き…」

自分で言っておきながら山崎は照れて顔を伏せた。
は、恥ずかしいなー本人にもちゃんと言ったことないのにそういや俺最近好きって言われたっけ言われてないかもでもちゅーされたってことはまだ好きってことでいいんだよねーあー土方さんに会いたくなってきたなぁ今日は朝から見てないなぁそういや夜の方も最近ご無沙汰な気がするなーって俺溜まってんの?いやいやそんな…

「お兄ちゃん?」
「…あ、ごめん」
「それでね、おじちゃんはお兄ちゃんのこと好き?」
「…」

そんなの俺も聞いてみたい。
山崎は考え込む。実際問題そこのところはどうなのか。
一応一緒に床についたこともあるのだから嫌われてはないだろう。しかし最近お呼びはない。

「…ど…どうかなぁ…」
「仲良しじゃないの?」
「う〜んとね…仲良しって言うか…なんだろう」

仲良しというほど子どものような関係ではない。とは思う。
かと言って色っぽい関係かと言えばそうでもなく、依然として上司と部下、が適切なように思う。

(…別に不満な訳じゃないけど改めて考えるとそんなに特別な関係と言うわけでもない気が…)
「何してんだ」
「ぎゃッ」

飛び出しそうな心臓を押さえ、山崎はゆっくり振り返る。
怪訝な表情の土方がそこに立っていた。

「山崎?」
「…」
「ねぇおじちゃん!」
「おじッ…」
「おじちゃんはお兄ちゃんのこと好きだからちゅーしたんでしょ?」

硬直する土方に山崎は血の毛が引いた。
まさか子ども相手に刀を抜いたりしないだろうが、あとでとばっちりを食うのは自分だろう。いやとばっちりというより当事者であるのだが。

「…なんだってェ?」
「この間お祭りの時このお兄ちゃんとちゅーしてたでしょ?」
「…」

あの副長を黙らせるなんて子どもってすごいなぁ。
現在逃避がてら山崎は感心する。

「…嬢ちゃん、大人は仲良しじゃなくてもちゅーしたりするんだ」
「そうなの?」
「でも嬢ちゃんはまだ子どもだから仲良しとだけにしとけ」
「ふーん?分かった」
「ほれもう暗いぞ、とっとと帰んな」
「はーい。たっくん帰ろ」
「う、うん」

土方が初めて少年の存在に気付く。山崎もすっかり忘れていた。

「じゃあねお兄ちゃん、また遊んでねー」
「気を付けて帰るんだよー」
「はーい。おじちゃんもまたねー」
「言っとくが俺もおにーさんだ!」

仲良く手をつないで帰っていくふたりが小さくなり、山崎はどっしりと溜息を吐いた。なんだか妙に疲れた気がする。

「ったく最近のガキは」
「…」
「この俺捕まえておじちゃんとはいい度胸だ」
「…そっちっスか」
「うら お前も帰るぞ」
「アイタッ」

後頭部を叩かれて危うく地面に沈みかりかける。どうにか持ち直して立ち上がり、先を歩く土方を慌てて追いかけた。

「あ…あ、あの、」
「あ?」
「…こ…今晩暇デスか…」
「…」

土方は山崎を見て、煙草をふかしながら考えた。そわそわと落ち着かない山崎に笑いそうになる。

「忙しい」
「そッ、そうですよねっすいません変なこと聞いて!!」
「まぁ誰かが手伝ってくれりゃ誰かさんに構ってやる時間ぐらい出来るけどな」
「…な、なんか狡くないですかそれ」
「何が?」
「…」

狡いなぁ。
拗ねた表情のまま山崎は土方の後ろを歩いた。

「…あ」
「どうしました?」
「あのガキ誰かに話したりしてねぇだろうな」
「…」

 

 

 


子どもは見た(ゴロ悪い)

040817