切 腹

 

離れた唇から漏れた吐息に照れて山崎の頬が淡く染まる。
頬に添えられた手が降りて浴衣をはだけさせた。手を制することもせず正面の男に噛みつくように口付ける。啄むように何度か繰り返し、最後に深く探り合う。

「…ッ、は」
「…早いな」
「え、あ、ハハ。仕事の時より緊張してます」

胸の上におかれた手に自分の手を重ねて山崎は目を伏せる。その手を握り、引き寄せて唇で触れた。

「そいつは困ったな」
「…どうせ手慣れてるんでしょうね」
「男なんて構ったことねぇよ」

続く口付けに自ら舌を絡ませていく。息が苦しくなりほど性急に互いを求め、ともすれば倒れそうな体を抱き寄せられた。

「…ひ、じかたさん」
「…」

副長と呼ばれないことに気が付いた。目を合わせるとへらっと笑う。
かき抱いて首筋に噛みついた。反射的に逃げかけた体を捕まえて、着物を割って素肌の腰に手を回す。

「あ、っ」
「山崎」
「…こ…この辺でやめときません?」
「…誰がやめるかよ」
「あーっ、じ、じゃあ、灯りッ!消しますよ!」

強引に腕から抜け出して山崎は灯りを消しにいく。真っ暗になった部屋で気配を辿ってそばに戻れば抱き寄せられた。
あまりにも強い力で抱かれるから夢ではないだろうけれど、このまま意識が飛ぶんじゃないかと山崎は思った。

 

*

 

「…」

やっちまった。
隣で眠る山崎を撫でて土方は頭を抱えた。無防備な寝顔に溜息が出る。
後悔しているわけではない。記憶が途切れ途切れという意味なら後悔しているが。

(…酒の勢いだったなんて死んでもばらせねぇな…)

火酒は匂いがないのでばれてはいないと思うが。
山崎の体は傷だらけだった。訓練や仕事なんかでのものだけじゃない。頼りなさそうでも真選組の一人だ。かつて拷問に耐えたこともある。
土方は手を伸ばして気になった傷を撫でた。偶然なのか、それとも。

「ん……うわっ」

目が覚めたらしい山崎が、目の前の土方に驚いて寝起きの目を丸くした。何となく顔をしかめて土方はその頭を叩いてやる。

「化けもんか俺は」
「す、すみません…」
「コレどうした?」
「え?あ…ってか何で俺だけ裸なんですかっ自分は着替えといて!」

顔をしかめて起きあがった山崎は浴衣を羽織って恨めしそうにこっちを見てきた。

「…見ましたね」
「派手な体だな」
「所詮下っ端ですからー。やだなみっともない…」

帯を見つける前に土方が脇腹を撫でて動きが止まる。

「これは?」
「…切腹のあとみたいですがそんなかっこいいものではなくて敵に斬られた傷です…」
「へぇ」
「親に貰った体ですから自分では傷つけませんよ」
「…お父さんお母さん有り難うございますご馳走様でした」
「ブッ」

山崎に向かって手を合わせた土方に焦って山崎はわたわたと手を上下させた。誰かに聞かれているわけでもないのに最後には土方の口を塞ぐ。

「まぁ切腹なんて似合う奴じゃねぇけどなお前は」
「む…一応武士のはしくれなんですけどね」
「切腹はしないなんてここにいる奴のセリフじゃねぇのは確かだな」
「…ひ、土方さんのためなら三枚にだって卸しますよ!」
「言ったな?」
「い…言っちゃった」
「とりあえず切腹はしなくていいけどもう一回。よく覚えてねーし」
「はい?あっ、ちょ…〜ッ!」

 

 

 

 


…ミ…ミカサ…?怯
シリアス書こうと思ってたはずが。

040807