長 髪

 

「…」

土方が女性と並んで歩いているのを見て山崎は溜息を吐いた。
鬼さえ恐れると言わしめるあの男は何故か女性にもてる。

(…って俺が言えることじゃないか)

長い髪が風になびいて土方の肩を撫でた。一瞬風が強くなり、舞い上がった髪が土方の制服にひっかかる。

(わ、わ、近いぞばか)

釦にでも絡まったのか、ふたりは立ち止まって向き合った。
土方が髪を解こうとしているが、あの人は天才的に不器用なので時間がかかりそうだ。見かねた女が手を伸ばす。

(あ、触った)

山崎は視線を外してうずくまった。庭の植木の陰から出るに出られなくなっている。

(…髪、長い方が好きなのかな)

自分の前髪を引っ張ってみる。とは言え自分は伸ばす訳には行かない。
振り返って枝の間から向こうを覗くとふたりは離れていた。ぽつりぽつりと話しながらこっちの方へ歩いてくる。

「土方さん」

注意してなかった方から声がしてぎゅっと手を握った。仕事中なら死んでる。

「どうした総悟」
「山崎見てやせんか」
「さぁ…急用か?」
「いや、かくれんぼの最中でさァ」
「…かくれんぼに獲物を使うな」

見れば沖田は腰に刀を下げている。かくれんぼがどういう遊びか知っているんだろうか。

「どこ行っちまったんですかねぇ」
「俺が探しといてやるからお前この子を送ってこい」
「女の世話ぐらいテメェで見て下せぇ」
「俺は午後は非番なんだよ」

任せた、と彼女の肩を押して沖田に預けた。沖田の方も飽きていたんだろう、彼女を連れて歩き出す。

「…山崎ィ」
「は…ハイッ!」

思わずその場で立ち上がる。
土方が振り返り、呆れたように顔をしかめた。

「お前仮にも密偵とかやってんだからもっとましなとこに隠れろよ」
「あ、いや…」

土方は近付きながら煙草に火を点け、こっちへ出てきた山崎の髪を払ってやる。ぱらぱらと葉が落ちた。

「…あ」
「ん?…あぁ」

シャツの釦が引きちぎられていた。見えた肌を山崎が隠すのを土方が笑う。

「髪切っちゃかわいそうだろ」
「…優しいんですね」
「妬けた?」
「ばか」
「副長に向かって馬鹿たぁ何だ」
「イテ」

眉間にでこぴんを食らう。その延長で頭を撫でられた。

「……あのう、」
「ん?」
「…も、もうちょっと触ってて下さい」
「…」

わしわしと頭をかき回される。どうせならもっと優しく撫でてほしい。

「…さっきの人は?」
「…秘密」
「え〜っ!やだ〜」
「オラかくれんぼなんかしてねぇで仕事してこい!」

山崎を突き放すように押すと拗ねた表情で離れていった。土方は後ろ姿を見て笑って煙草をふかす。
山崎のことを聞きにきたなんて言わなくてもいいか。

煙が髪のように風に遊ばれた。

 

 

 

 


ようやく土山っぽいの。

040806