刃と刃がぶつかって音が響く。磨きあげられた刀身に自分の目が映った。鬼のようだと人は言う。
その目で目の前の男を睨みつける。流石に怯みもしない。

「副長!」
「手ェ出すな!先行けッ」

相手が刀を払って振り上げたので返事は待てなかった。また副長と呼ばれたような気がしたが答えている余裕はない。相手が踏み込んでくる前に足を前に。振り下ろした刀は刀で受け止められる。嫌な音、欠けたかもしれない。
かと思えば競り負けたのは向こうだった。折れた刃先が落ちる。隙を見逃さず、踏み込んで斬った。
崩れていく男を押して先を急ぐ。

もう敵の数は大分少ない。近藤や沖田が一階で暴れているためそっちに集中しているのだろう。土方は取りあえず二階へ踏み込む。

「…」

刀を構えて慎重に足を進めた。廊下に倒れているのは全部死体なのだろうか、生きている気配はない。

「副長」
「!」

刀を構えたまま振り返れば立っているのは山崎。息を吐いて刀を下ろす。

「二階はもう誰もいません」
「そうか。…」

山崎の手に血に濡れた刀があった。

「斬ったのか」
「…何人か」

下から派手な爆発音がした。沖田の仕業だろうと思うが、建物が壊れないことを祈るばかりだ。
見れば山崎の脇差は腰にある。手にしているのも長い刀だ。
刀を振って血を払い、山崎は少し先へ歩く。うずくまるような格好で事切れている男の前で立ち止まり、ありがとうございましたなんて呟いて刀を添えた。

「…そいつは使わねぇのか」
「…これは父親の形見でして、」
「…」
「切腹するときに使おうかと」
「予定でもあんのか?」
「上司の誰かさんが俺の解釈がしたいみたいでやたら切腹を勧めてくるんですよ」
「ほぅ、そうか」
「えぇ」

笑っているようなそうでもないような、なんとも言いがたい表情をしていた。 体を階段に向けながら山崎は息を吐く。

「降りましょう」
「…あぁ」

不器用な男だと思う。
笑えないのなら笑おうとしなければいいのに。

「…あークソ、煙草なくした」
「あーあ。踏み込む前に新しいの開けてませんでした?」
「…そうだ。部屋にもねぇ」
「明日朝一で買ってきますよ」
「…山崎」
「はい?」

振り返ったのを抱き寄せて唇を重ねた。とっさのことに山崎は反応出来ない。

「…ふくちょ、」
「泣きそうな顔するぐらいなら来んじゃねぇ」
「…」
「我慢するぐらいなら泣け」
「…泣きながら人斬るんですか」
「上等じゃねェか」

 

 

 

 


土山…?最後に土方さんの刀が消えるマジック。
ほのぼのとした話は書けないのかお前。

040805