埋 み 火

 

炉辺で暖を取りながら、箸でつついて炭を埋めた。赤く燃える炭は自分が隠し持っている思いのようであまり見たくない。
隣で総悟が舟をこいでいる。近藤さんが戻るまでは、と言い張ってさっきまでは隣の雪下ろしがどうだったとか、姉の料理の失敗だとか、つまらないことを一生懸命喋っていた。しかし話題も尽き、土方も真剣に聞いてはいなかったから飽きたのだろう。

「……そうご」

思わず声をかけると総悟ははっとして顔を上げ、戻りやしたか?と真っ直ぐ土方を見た。その後部屋を見回して、肩を落とす。
――――近藤は正式な返事を聞きに行っていた。最近知り合いになった松平という男に誘われ、江戸で警邏組織を作ることになったのだ。政府からの正式な許可が、今夜下りる。組織構成や書類上は何も問題はないはずだが、田舎侍にでかい顔をさせる機会を政府が簡単に作るわけがない。

「…遅いですねィ」
「…降ってきたからな、今日は戻らないかもしれねェ。もう寝とけ」
「嫌だ」
「……」
「近藤さんから返事聞くまで」
「総悟」
「俺を捨てていいなんて思ってるんですかィ」
「捨てッ…」
「だってそうだろィ」
「あのなぁ、捨てるなんて誰もいわねぇよ」
「連れて行ってくれねぇなら一緒だ」
「……俺だって、」

思わず口をついて出そうになった、言葉。総悟が先を待つが、それ以上言えなかった。
俺だって、お前がいないとどうなるかわかんねぇ。

灰の中で炭が燃えていた。赤く赤く、這うような炎。



*



春になった。門出には春がいいだろう、と言う簡単な理由で、準備は急速に進められた。
今日隊服が出来た。先日採寸をし、政府お抱えの針子が仕上げた。

「おう、お前みたいなガキもそれなりになるじゃねぇか」
「…髪切ったんですかィ」
「鬱陶しいからな」

第一洋服には似合わなくていけねぇ。土方の呟きに、総悟の確かな軽蔑が飛んでくる。格好だとかそういったことに頓着しない総悟には理解しがたいのだろう。
――――特別警察真選組。それが自分達の名だ。結局近藤は総悟に押し切られ、来るのならば、と自分が隊長に指名した。総悟はそれを知って数日は浮かれていたようだが、土方の「副長」というポジションを知ってからは不満を募らせているらしい。

「俺姉ちゃんに見せてくらァ」
「待て」
「何ですかィ」

腕を掴んで引き止めると露骨に嫌そうな顔をした。「大人の男」を嫌う時期なのかもしれない。近藤は幾つになっても子どものようだし、その他の大人はみな大体が所帯持ちで男の匂いをさせない。
沖田の方が年下とはいえ土方が子どもの頃も見ているのだ。少しずつ大人になっていく様子がある種の恐怖だったのだろう。

「もうここから先は遊びじゃねぇ」
「わかってまさぁ」
「だから言っとく」
「何を…」

また可愛くない口を利きそうな唇を無理やり塞いだ。見なくても驚いた表情がわかる。ずっと見てきた。何度、この手に入れたいと思ったか。
灰の中で火種がはじけた。
次の瞬間には頬に平手を食らった。イッテェ、呟いて沖田を見る。捕まえた腕は放さない。

「…土方さん」
「言っとくぞ」
「何を!」
「俺はお前を手放す気はねぇ」

ヒュッと息を呑む音が聞こえる。沖田の顔色が赤や青やと変わる。
ずっと隠してきたのだ。だけどもう、知らない。隠せない。隠したくない。

「いつ死ぬかしれねぇから言っとく」
「かッ…勝手な!」
「お前以外を見たことねぇ」
「ひじかたさん、痛い…」
「こっち見ろ!」
「ッ…」

目を瞑るからまた唇を奪う。抵抗するのを抱き込んで。
春になったのが悪い。

 

素敵な土沖サイト様を見つけて思わず。

060203