短 日

 

「寒いっスねぇ」
「寒ィな」

白い息を見ながらゆっくり息を吐き出し、山崎は子どものように笑った。カイロ代わりに渡したコーヒーの缶を開けて口にするなり顔をしかめる。迷った様子の手からそれを取り、代わりに自分の持っていた缶を渡した。中身は同じだが開けなければカイロとして継続する。

「……ブラック飲めないんですよね〜…」
「早く言え」
「いや、もしかしたら飲めるかな〜って思ったんですけど」

ダメだったなぁ。心底残念そうに山崎は呟き、代わりの缶を鼻先に当てた。
学校の近くの公園で、ブランコを揺らしてふたり。吹きっさらしのお陰で全身の毛穴からも冷気の入り込んでくる感覚がある。足の指先の感覚はない。寒いとわかりきっているのに、どちらからも帰ろうとは言い出せなかった。日はとっくに沈み、少しずつ闇が迫ってくる。同時に歓楽街が目を覚ます。太陽の代わりに派手に明かりを灯し、寒さに迷う遭難者を誘うのだろう。

「あ〜、やっぱそろそろ無理だなぁ…かまっ娘かむっちゃんちに泊めてもらおうかな〜」
「…うちの古いの持ってくか?ファンヒーター」
「あー、灯油買う金がないです」
「……」
「ははっ、いいですよ。そろそろあの部屋も引き払おうかと思ってて」
「何処行くんだ?」
「西郷さんちにお世話になろうかと」
「ふーん…」

温くなったコーヒーをすする。あっという間に温度は奪われてしまう世界は、高杉ではないが日本かどうか疑わしくなる。

「杉くんみたいにもこもこで来ようかな〜」
「あいつは着込みすぎだ」
「でもあー見えて体弱いんですよ。すぐ風邪ひくし」
「…なぁ、お前」
「はい?」
「俺んち来るか?」
「ヤです」

迷わない返事は予想はしていたが、それでも堪えて土方はぐっと缶をへこませた。中身をこぼす前にと一気に残りを飲み干す。

「土方さんはすぐにそっちの方持ってくからダメです」
「俺が変態のような言い種だな…」
「そうじゃないですけど…」

酒と言うより自分たちに酔ったカップルが通りかかった。ふたりを不審そうに見ながら何か囁き合っている。男ふたりで可哀想ね、なんて言っているのかもしれない。

「…じゃあ、俺そろそろ帰りますね。店始まるし」
「もう?」
「日が短くなったから開店時間伸びるんです」
「あぁ…」
「…もっと、日が長かったらずっとこうしてられるのにね」
「…」

開けてない缶を土方に渡し、山崎は無言で手を振った。その笑顔に何処か胸をうたれる。自分がもう少ししっかりしていれば送るのだが、山崎は男だし何より土方が歓楽街へ近付けない。嬉しくないことにおかま好みの容姿らしい。

「…また明日」
「はい!また明日!」

夜は山崎を奪っていく。もう何日続いているのだろうか。毎日のように寒空の下に引き留めて、自分がしたいこともよくわからない。公園の入り口で一度振り返った山崎に手を振ると、嬉しそうに振り返してくる。山崎の温度の温度缶を握り締めて情けなくなった。

(…あ〜…)

早く春が来ないだろうか。女々しく思ってブランコを蹴り、ゆっくり公園を出て行った。

 

冬コミペーパーにのっけてました。
忍者を意識して筒状に巻いてました。うざくてごめんなさい。内容忍者と関係ねぇ。

060116