鞜 青

 

「この星は綺麗ネ」
「…そうですかィ?」
「羨ましいヨ。わたしも傘なしで歩きたい」
「…」

青草を踏みしめ、神楽は足元を見下ろす。
一歩、もう一歩。
足元に広がる青い世界。小さなオオイヌノフグリが散らばって、つくしが少しずつ顔を出す。

暖かくなって地面は青さを増した。
春は人を陽気にさせるのか、沖田に会うといつも不愉快な表情を見せる神楽も今日はご機嫌だ。
ゆっくり春の地面を歩く神楽の後ろで沖田はしゃがみこむ。シロツメグサを見つけて一本引き抜いた。

「…おいチャイナ!」
「…何ネ!人が感動してるときに邪魔するなヨ!」
「これを集めてこい!」
「はァ?」
「こいつ!たっぷり集めろィ」
「…」

神楽は顔をしかめて、足元にあったのを一本引き抜いた。それを沖田に投げつけると沖田は拾い上げ、数本束ねて編み始める。
どっしり腰を据えて手の届く範囲から花を摘んでいって、しばらくその手を見ていた神楽は立ち上がった。少し離れて花を集め、片手いっぱいにしてから戻って沖田の前に降らす。
彼の手は時々迷いながらも確実に花をつなげていき、最後には端と端をつなげた。輪になった花束をただ見つめる神楽の頭に、ひょいとそれを載せてやる。

「な、何?」
「花冠」
「冠?」

頭から下ろしたそれを見る。
ところどころから茎の端がはみ出し、花は向きや間隔がまちまちだ。

「…こんなの、」
「…似合わねぇな」
「…」
「あんたにゃ血の方が似合うんじゃねえか?」
「!」

春の風は優しくふたりを包んで流れるから、沖田は泣きたくなって、余った花を手に取った。
悪い、と一言、無理矢理押し出す。

「嘘。似合う」
「返すアル」

頭に花冠が載せられた。
俯いたままの沖田の視界から、傘の影が離れていく。

「お前の方こそ似合わないネ」

歌うように青草を揺らして、柔らかな風が吹く。
しばらくして沖田がゆっくり顔を上げると彼女の姿はなかった。軽い体は足跡も残していない。頭から花冠が滑り落ちた。

「…」

土方さんの墓前に添えてやろう。
まずは墓を作らねぇとな、沖田は立ち上がり、若い草を踏みつける。

 

050407