雪 晴 れ

 

「ふえぶちッ」
「…なんつーくしゃみだ」
「総悟、風邪ひくぞ」
「大丈夫!」
「ったく…子どもは風の子か」

がははと近藤が笑う隣で土方は煙草に火をつけた。道場の庭では総悟が雪を集めて雪だるまを作っている。
昨夜の天気予報は外れ、夜中から降り続けた雪は一夜にして世界を白く塗り替えた。今は雪は止んでいる。
朝からいそいそと、ロクに食事も取らずに総悟は雪だるまを作り続けていた。近藤たちは稽古なり何なりと忙しく、普段から幼い総悟をひとりにしているが彼はいつもそれなりに暇を潰せているようだ。
近所の子どもたちと遊べばよいとも近藤は思うのだが、本人はそれを望まない。土方もそれについては何か分かっているようだった。

大きな雪だるまが一体、小さな総悟の手で作られた。いびつな頭部をさっき体に乗せてやったのは近藤だ。
自分のマフラーをそれに巻いてやり、総悟は今二体目に取り掛かっている。今は寒くはないのだろう、幼い体は雪を持て余して汗ばんでいる。

「はぁ、」
「総悟、手伝おうか?」
「俺一人でやるんでさァ」
「そうか。また大きいのか?」
「今度は俺を作るんでィ」
「へぇ、じゃあその大きいのは?」
「こんどーさん!!」

見ればさっきはなかったのに、腰の辺りに木の枝が刺してある。それは刀のつもりなのだろう。
雪だるまには他に顔も手もないのに、刀だけが。近藤の後ろで土方が笑う。

「近藤さん、いい加減あいつに刀握らせてやったらどうだ」
「トシ…」
「下手に我流で覚えられるよかいーだろ」
「…しかしなァ、あんな子どもがって、思うんだよ」
「大丈夫だろ、あんたが教えりゃ」
「そうかぁ?」
「あんたが教えりゃ、本当に護らなきゃなんねーもんに気付く」
「……」
「こんどーさんッ、頭載せてくだせェ!」
「お、おう!」

近藤が庭に下りていき、鼻を赤くした総悟に近付く。
さっきの大きな雪だるま、近藤の隣に小さな体と頭が並べてあった。作っているうちに混乱したのか、どっちも同じぐらいの大きさであったが、総悟はこっちが頭、と近藤に伝える。
冷たい雪の塊を持ち上げて体に乗せて、落ちないか確認して手を離す。ありがとう、と素直に礼を言ってくる子どもに照れて、着物で手を拭って頭を撫でた。かじかんだ指先では上手く撫でられない。
寒さに鼻をすすりながら、総悟は再び雪玉を作り始めた。

「また作るのか?」
「土方さんもいねーと寂しいだろィ?」
「はは、そりゃ違いねぇ。俺も手伝おう」
「ひとりでやる!」
「そうか、じゃあトシを作る前に一旦休憩しよう。お前手袋もびしょびしょじゃないか、幾らなんでも風邪ひくぞ」
「…うー、うん、」
「あっちで正月の餅がぜんざいに化けてる。早くしねーとみんな食われちまうかもしれねーぞ」
「!!」

近藤の言葉を聞くなり総悟は縁側に走っていき、濡れた手袋を放って廊下を走っていく。手袋は見事土方の顔面にクリーンヒットしていて、偶然でなければ凄い才能だ。

「あのガキャァ…」
「ははは、総悟も大人ぶりたいのは分かるが子どもだな」
「子ども子どもって誤魔化す気か?いつまでももたねぇぜ」
「…トシ、俺はなァ、別にあいつに件を教えたくないわけじゃねぇよ」
「あぁ」

土方は膝に落ちた手袋を拾って煙草の火が触れなかったか確認した。土方の手より一回りは小さい冷たい手袋。
こんな短い指で、雪と同じように未来を掴もうとしている。

「でもよ、あいつは今、遊ぶことが仕事じゃないのか?」
「近藤さん、あんた貧乏道場で終わる気はねぇんだろ」
「……」
「俺だってあいつだって、平和な暮らしを求めてなんかいねぇよ。なぁに、遊ぼうと思えばいつだって遊べる」
「…そうさなァ、」

そして見上げた空は晴天。
トシを作る前に溶けしまうかもなぁ、近藤が笑った。

 

土方さんはまだ嫌われてないご様子。

050316