午 睡

 

「…あーあ、結局寝てんじゃないですか」

畳の上に眠る土方に山崎は溜息をついた。
珍しく彼の部屋の障子が開けてあると思えば、どうも張り替え中らしく外してある。そこから見える無防備な寝顔に、沖田に襲われたらどうするのかと少し笑いがこみ上げた。

山崎が羽織を脱げば、着ているのは女物の着物。地味なものだが男が日常として着るには見かけない。
その羽織を手に土方の部屋へ入る。失礼しますと一応小さく声をかけて。
ふと見れば、机で見えなかった位置、土方の足を枕に寝ているのは沖田だ。アイマスクをしているのを見ると本当に寝ているのかは怪しい。

不格好な丁の字がなんとも微笑ましかった。出来れば沖田の手に油性ペンなどなければもっとよかったのだが、土方の少なくとも顔には悪戯の形跡はない。
土方に羽織をかけ、押し入れから布団を出して沖田にかける。
気配で起きたのか沖田が目を覚まし、アイマスクを下ろして傍に膝をついた山崎を見上げた。

「あ、すいません」
「…何でィその格好」
「あ、ちょっと仕事出てたんで」
「母ちゃんみたい」
「かあ…」

目をこすってあくびをかみ殺し、起きるのかと思われた沖田は山崎の膝に倒れ込む。
しっかり腰に手を回されて、引き剥がしかけたのをやめるとそこに落ち着いてしまった。

「…あんまり副長いじめちゃダメですよー、昨日は朝方まで仕事してらしたんですから」
「母ちゃん俺だって朝っぱらからむさくるしい下っ端連中に指南してたんだぜィ」
「お疲れ様」
「腹減った」
「昼は?」
「食ったけど、」

足りない、と言ったと思う。
それは半分声にもならず、なんだか分からないものになった。一息置いて、寝息が聞こえる。

「…お疲れ様です」

起こさないよう布団を引き寄せて掛け直し、髪を梳いて頭を撫でる。
静かだ。そう思った瞬間に高い子どもの声が外を通り過ぎた。それからあとはまた静けさが戻る。
午後の丁度昼食の終わった頃、近所の犬も寝ているのだろう。騒がしく吠える声が聞こえない。

開け放した部屋に柔らかな日差しが差し込み、山崎の背中を撫でる。
眠る気はないのに瞼を伏せるとそれきり上がらなくなった。気持ちのいい午後だ。
キシリと縁側が鳴るのでゆっくり振り返る。近藤と目が合って彼が声を殺して笑った。
黙って部屋に入ってきて、山崎の傍に立って沖田を見下ろす。首まで下げられたアイマスクが奇妙な表情を作っていた。

「…ぁの…報告、」
「急ぎじゃないだろ?どうせトシが聞かんとわからん」

くしゃりと山崎は頭を撫でられ、土方に視線を移す。
日差しは顔まで届かない。羽織をかけた腹が寝息に合わせて規則正しく上下している。

「起きるまで待ってやってくれ」
「…」

優しく頭を撫でられるのが心地よく、子どもみたいだと思いながら山崎は目を閉じた。
日は温かい。

「おやすみ」

 

季語だと忘れ以下略。

050214