残 雪
もう温かくなってきたというのに、日陰の雪はまだ解けない。
おそらく最後の雪であろう先日の大雪の時に庭の雪を固めたもので、土が混じって情緒があるとは言いがたかった。大分寒さの緩んできた最近、春になってくるとまた忙しくなるなと土方が呟いた。
「…そうですねぇ」
縁側で山崎はのんびりと返事を返した。
春は好きだった。静かに生きていたものが、次々と活気を取り戻す。
植物や動物と同じようにテロリストたちが起き出すのがやや難点ではあったが、不謹慎ではあるが忙しいのは嫌いではない。「山崎」
入って閉めろ、と、土方の声。
温かい陽は雪を溶かさない、影にあるから気付かないのかもしれないと思った。
黙って、土方の部屋に入って障子を閉めた。
*
深く深く、溺れるように口付けは続く。
時折僅かに息をしながら、互いの舌を絡めて抱き合う。もどかしい指先が服を脱がしていった。
キスの合間に、山崎が笑う。「…何だよ」
「いや、春だからかなと思って」
「は?」
「発情期?」
「…かもな」
「ん、」溶かすように甘い罠。絡めて縛って逃がさない。
「…あッ」
終わった後に残る思いは残雪に似て、まだまだ溶けずに残っている。
溶け切るには熱さが足りない、こんな汚れたあたしには興味がないかしら?何かの音を聞いた気がして山崎は起き上がった。
何の音だったか分からない。「───山崎」
「あ、すいません起こしましたか」
「いや」部屋の外は暗くなっている。薄ぼんやりとした夕方と夜の間。
土方が煙草に火をつけ、ついでに部屋にも灯を入れた。胸に留まる、何とも言い知れぬ感情。
「…副長は」
「ん?」
「きっといつまでも人の中に残る」
「……」
「だから俺なんかいつでも捨てていいんですよ」
「───バカ言うな」つけたばかりの煙草を灰皿に押し付けて、部屋の灯も落とす。
夜になった空は明かりを貸さなかった。暗い中で引き寄せられて、残雪を思う。
溶け切るまでのあと少し、どんなに汚れることも厭わないから貴方の側に控えましょうと、囁くつもりで唇を重ねた。「───あ」
春の足音がする。
050214