「…ん?」
「よそ見すんなァァ!」

ぐぐっと土方に押しつけた刀に力を込めながら、沖田は河原を見おろした。誰かが一人しゃがみ込んでいる。
赤い靴が下から覗く大きな傘、それを所持する人を沖田はひとりしか知らない。
沖田に殆ど体重をかけられ、どうにか刀を受けている土方は必死で逃げ道を探す。しばらくおとなしいと思えば見廻り中に突然刀を抜かれ、今度こそ命の危険を感じた。

「なんだありゃ、クソでもしてんのかねィ」
「知るかァッほっといてやれよ!」
「ちょっと行ってきまさァ、続きはまた今度」
「続かんでいいっ」

沖田が刀を引いて、土方はつんのめりながら持ち直す。顔をあげたときには沖田は河原を駆け降りていた。その先に例の傘を見つけて納得する。

「あいつも女が優先になったか…」

しかしもう少し年相応な娘に惚れてほしかった、と思わなくもない。あと十年もすれば釣合は取れるのかもしれないが、今の時点では兄妹がいいところだ。

「ま、総悟にゃまだそんなもんか…俺総悟の年って、………」

若気の至りって怖ェ。
土方はすぐに過去を振り返るのをやめ、見廻りを再会した。

 

*

 

「チャイナ!」

びくん!
向こうの反応に沖田も驚いた。すぐさま攻撃されたり不満顔を向けられることは多々あったが、こんな反応は初めてだ。不思議に思いながら傘の中を覗き込む。

「…何ヨ」
「お、誰でィ無修正捨てるなんて罰当たりな奴ァ」
「…」
「…あんたの趣味ですかィ?」
「ふざけるなヨ」

赤い靴の先にあるのは成人指定の雑誌。
夜露や川の水にさらされたせいか紙はすっかりふやけている。写真の中でさらされた女性器が奇妙にゆがんでいた。

「…前から思ったけど、この本何に使うアルか」
「何って、…旦那には聞いてみたんですかィ」
「教えてくれなかったアル」
「まぁ旦那も災難だ」
「何ヨー」
「これがどういう場所か知ってるかィ?あんたにもついてんだろ」
「…知らないヨ、こんな気持ち悪いもの」
「見たことあんのかよ」
「…」
「見てやろうか?」
「変態!」
「気にならねぇのかィ」
「…」
「かぐ」
「ハイしゅう〜りょお〜!!」
「ッ!」

力いっぱい殴り付けられ、沖田は石の上に膝をつく。
銀ちゃん!
傘が飛んで、沖田の隣を少女が駆けた。

「はいよしよし。お前何したの」
「されそうになったアルヨ!」
「あーあ、邪魔するなんて野暮な旦那だ」
「バカヤロー女はもっとスマートに誘え」

腰に巻き付く少女の頭を、銀髪の男は優しく撫でる。ぐらりと気持ちが沸き立って沖田は顔をしかめた。

「旦那ならどうやって誘うんですかィ」
「俺?俺は光源氏のようにだな」
「ローラースケート?」
「いや違くて。何?知らないの?」
「ジェネレーションギャップってやつですかィ」
「むしろ逆じゃないの今の」
「銀ちゃん帰ろう!私こいつといたくないアル」
「こりゃ嫌われたもんだ」
「セクハラ警官に用はないアル!傘渡せヨ!」
「あんたが飛ばしたんですぜィ」

沖田は渋々立ち上がって傘を拾う。それは思っていたよりも重い。自分で差してくるりと回せば、少女が抗議してくる。

「ちょっとだけじゃねぇか。ほらよ」
「帰って傘を消毒するアル」
「取れって言ったのはあんただろィ」
「ほらほら神楽ちゃん帰るわよ」
「はーいマミー」
「何ごっこですかィ」

河原の石の上をふたりは手をつないで歩いていく。傘が男にぶつかってふたりで笑い合って。
沖田はちらっと雑誌の方に目を落とし、またふたりの背中を追った。

「神楽」
「何ヨ!」
「!」

聞こえるとは思っていなかったので沖田は目を見開いた。足を止めて振り返った神楽がこっちを睨む。

「…はは」
「銀ちゃんあいつなんか笑ってるヨ。きしょい」
「また遊ぼうぜィ」
「嫌アル!」

べっと舌を突き出して、神楽は銀時にすがりついて歩き出す。
傘の攻撃に耐えかねて銀時が傘を持った。

「…」

沖田は足元の本に目を落とす。

 

 


7巻の影響じゃないよ、多分。

050512