「ひっくしゅ!」
「…この寒いのに足出してるから」

隣の少女を見て、あぁ鼻水出てるし、沖田はうんざりして溜息を吐いた。
ティッシュを差し出すと大人しく受け取ってくれるが、鼻をかむ音がまたなんと色気のないことか。

なんだってこんな女と。
小さい体の割に情緒もなく大股で歩く少女に、既存外サイズのばかに大きな犬を連れて。
おまけに舞台は近所の公園、どこぞでもらってきたという大量のパンの耳を池の鯉にまいている。そのまき方もちぎったりせずに投げると言う非常にワイルドな方法だ。食べながらまくのもどうかと思う。

だけど今日が曇り空なのは感謝出来てしまった、風は冷たいけれど彼女の側に立てるから。
彼女が日頃手放さない大きな傘は、今は従者のように側に控える犬の首輪に差してある。背中に定規を入れられたような苦しい体勢になっているが、ワンとも文句を言わない。

「…なんだって今日はそんな格好してんだィ」
「銀ちゃんが洗濯物干すの忘れてたアル。今頃銀ちゃんが新八に干されてるヨ」
(…あのおっさん…)
「お陰で服がなくなったアル」
「…それでチャイナドレスですかィ」
「盛るなヨ」
「鏡見て言いなせェ」

沖田は疲労さえ感じ、その場にゆっくりしゃがみこむ。
簡単な柵の向こう側、綺麗とは言い難い池には何故か立派な鯉が結構な数泳いでいる。ぱくぱくと必死でパンの耳をつつきまわし、割と大きな塊さえ飲み込んでしまう。

ふっと視界の端に飛び込む赤。ちらりとそっちに視線をやれば、少女の服の端が風に揺れていた。
何の気なしにそれを眺めていたところに突然の風、舞い上がった布が沖田の顔面を叩く。

「ッ…つー…」
「…何してるアル」
「…」

それどころではない。
少し冷たい手を顔に当てて痛みに耐える。不意を突かれたこともあるが、そうでなくとも痛い。

「あっまたお前!お前じゃないヨ私は白いのに投げたアル!また赤い奴が!」
「あんたと一緒で意地きたねぇ奴だ」
「今度こそッ」
「…」

食べるのも忘れ、何やらひとりで白熱している。
何をそう必死なのか。

「…」

また視線を赤へ。目立つのでやはり目を引く。
スリットから覗く足は細く、女らしさは全くない。しかもそれ、膝についているのはチョコではなかろうか。
はぁ、大きく吐き出した溜息に彼女は気付かない。沖田の存在も忘れて鯉に熱中している。

「…」

すっと手を伸ばして布を摘む。
少しずつ、バレないようにゆっくりそれを上げていき、

バシッ!

「いッ!…」

体ごと押されて、よろけた拍子に手が離れた。
沖田が体勢を持ち直せば、大きな犬が大きな前足を沖田に構えている。大変忠誠心は厚いようだ。
ふふん、何か自信ありげに笑って犬は少女を抱き寄せる。

「定春?」
「…保健所送りにしてやらァ」
「あっ何するアル!定春いじめたら許さないアルヨ!」
「人様に手を上げた犬は保健所だぜィ」
「お前が何か悪いことしたんだろ」
「してねぇな(未遂だし)」
「ふん、どうだか。 あ、パンがなくなったアル。定春帰るよ」
「…帰るんですかィ」
「おうよ。じゃあな」
「…」

首輪から傘を抜き、差すことはせず少女は歩き出す。
軽やかな、制約のない後ろ姿。

ふっと一陣の風が、再び少女の衣装を巻き上げた。布が背中を叩いた感触に少女は慌てて振り返る。

「…見たッ!?」
「…見てねぇよクマなんざ」
「パンダアルヨ!せくはらアル、金払うヨロシ!」
「…金払ったら見せてくれんのかィ」
「…死ね」

冷たい視線を残し、少女は犬と連れだって行ってしまう。
何となく苦笑して鯉を見た。もうパンも餌をくれる人もいないのに、相変わらず水面で口をぱくぱくさせている。
息を吐いて立ち上がり、帰ろうと体を返せば……

「…山崎?」
「はっ、はいィっ、奇遇ですね隊長!」
「…3回ぐらい死ね」
「ぎゃっ、俺はただミントンを…うわッ何も見てませんって!ギャーッ!!」

 

*

 

「銀ちゃんただいま〜…」
「おうお帰り、元気ないな、どうした?」
「…銀ちゃん洗濯ばさみついてるアル」
「おっと」
「…銀ちゃ〜ん、パンツ見られたアルヨ。もうお嫁にいけないネ」
「あん?そいつのとこに嫁に行け」
「…絶対嫌アル。銀ちゃん嫁にしてヨ!」
「そいつは今後と相談だな…」

 

 


山崎はサボりです。沖田もサボりです。
私は神楽ちゃんを何だと思ってるのか。名前を出すタイミングをなくして出てこないしね。

041120