「…あんな若いのまでいるのか」

男の声に土方は外へ視線を移す。屯所の庭で隊士達が剣の練習中だ。
今は沖田と山崎が打ち合っている。それを見ているのだろう。
男は政府の役人で、今日は視察と称して現れた。下手なことをしてくれるなよと土方は苦悩する。

「遅い」
「はいっ」
「足元」
「はいっ!」

「…あれはあぁ見えてうちの隊長をしてまして」
「あんな若者が?いや失礼、けなしたわけでは」
「実力なら備わってます」
「そのようだ」
「…あなたは」
「…ここだけの話私は君たちを買ってるんだ。…私も侍だったからね」
「…」
「…彼はいい目をしてる。凛とした真っ直ぐな目だ」
「…」

凛とした?真っ直ぐな?
顔をしかめて土方は沖田を目で追う。音を上げた山崎に変わって別の隊士がまた沖田の剣を受けていた。
木刀ではあるが威力は相当だろう。しかしやる気が起きていない。苛立ちの剣は指南だと言うことを忘れているし、無表情なのは拗ねているからだ。

(しゃーねぇだろうがよ、抜き打ちで視察なんだから。そもそもサボる気だったテメェが悪い)

「次」
「はいっ」

「…」

見慣れてしまった土方には到底そうは思えないが、しっかりして見えるのならそう思わせておこう。
そう思った矢先、塀の向こうから何か歌が聞こえてくる。声は少女のものであるのに、歌はどうも奇妙だ。
土方が声の主を思い当たるより早く、沖田は相手を打ち払う。

「山崎!」
「はいよっ!」

木刀を手放して山崎が壁を背にして立ち、体の前で両手を前で重ねる。
ダッと駆けだした沖田は地を踏みしめ、飛び上がって片足を山崎の手に載せた。ぐっと山崎がその足を持ち上げ、沖田が更に飛び上がり塀の上へと着地する。
一同から拍手が沸き、歌が止まる。沖田は塀の上で、着地したままの格好の、俗に言うヤンキー座りで下を見おろした。

「おぅチャイナ!騒音まき散らしてんじゃねーぞ、残った葉もみんな落ちちまうぜィ」
「…なんだヨお前か。その年で総入れ歯カ?」
「その歯じゃねぇ。どうせならもっと色っぽい歌にしたらどうでィ、ちちをもげなんて歌ってたら例え可愛い子でも可愛くなくなるぜィ」
「私可愛い?」
「バカかィ、例え話だぜ」
「素直じゃない男ネ。フォルゴレをバカにするなヨ」
「何でィ、アゴが割れてりゃ偉いのかィ」
「メモが挟めるアル」
「そりゃいい、あんたのアゴも割ってやらァ」

スパンッ!

土方は障子を閉め、何事もなかったかのように座っていた場所へ戻る。
何か言いたげなのを気付かないふりをしてお茶をすすった。

(山崎 後で切腹…)

外で乱闘が始まるのは必至なので、どうやって役人の安全と信用を確保すようかと土方は眉間にしわを寄せた。

 

 


フォルゴレはガッシュですが知ってる人おるんかな。はれんちな歌ですよ。
あとラブ☆コンのぱくりも一部。最近読んだ。

041108