花の色は うつりにけりな いたづらに

わがみよにふる ながめせしまに

 

「…何ヨそれ」

神楽が傘を回す手を止めて、予想外の効果に沖 田はにやりと笑う。
二人で歩いているのに彼女はさっきから夕 方のアニメの歌を歌っていたから。

「歌らしいですぜィ」
「歌?」
「昔の人が作った歌でさァ。山崎がブツブツうるせェから 俺が覚えちまった」
「どういう意味アルヨ。さっぱり分からん ネ」
「…なんだっけ。辛気臭い歌だぜィ、確か、女の歌だ」

必死で山崎のうんちくを思い出す。雨がどうとか、そうだ。

「雨が降ってる間に花の色は色あせてしまって、男が待たせてる間に女も年取ったとかいう歌」
「…ふぅん」
(あ)

一気に興味は薄れてしまったらしい。やはり山崎は当てにならない。
ふう、沖田は一息ついてずれてきた歩幅を調整する。普通ならば男がゆっくり歩かなければならないのだろうが、彼女は小さい体の割りに歩く速度がえらく速い。
沖田が普段からゆっくり歩くのも相成って、彼女は気遣うことをしないから沖田は早く歩かなければならなくなる。

「待たせるような男はさっさと振って、新しい男を見つければいいアル」
「あんたなんか早すぎて捕まりませんぜィ」
「私が捕まえてやるヨ」
「…へぇ、」

じゃあ俺を捕まえたのは故意ですかィ?
まともな返答は得られないと分かっているので聞きはしない。戯言だ。

「花なんか散ったってまた咲くアルヨ」
「咲きやすね」
「女は50からが花アルヨ 、お登勢が言ってたネ」
「そりゃえらい自信家なババァだ。… じゃああんたはまだ蕾みたいなモンですかィ、」
「馬鹿野郎、 私の何処がそんなモンに見えるアルヨ」
「…胸とか」

瞬間、一発触発の空気。
それを楽しむように笑ってやると、毒気を抜かれたようにまた前を向いてしまった。

「あんたもいつか散るんですいかねェ」
「散ってやらねーヨ」
「はは、あんたも大したもんだ」
「それにお前は待たせる気なんてねーだろうがヨ」
「…バレやしたか。だってお嬢さんは待ってくれないだろィ?」
「私は最先端を行く女!」
「へいへい」

最先端の女は酢昆布を食うのかねぇ。いやもしかしたらそれは流行の先取りかもしれないが。

「ま、あんたみたいな花もそういねェ」
「ん?」
「好きだってゆったんですぜィ」
「そんなこと言ってなかったアルヨ」
「言葉の裏を読むのが女のたしなみですぜィ」
「そーかヨ 」
「返事はないんですかィ」
「秘密アル」
「…へへ、こんど花 束でも持ってデートにでも誘おうかね」
「食べるものがいいアル」
「…色気のねぇ娘さんだ」

 

 


初めて覚えた百人一首。かわいい。

041008