「…」

またあんなところで寝てらァ。
もう少し自分の性別を考えるといい、世の中にごまんといる男の中には色んな趣味を持つものがいるというのに。沖田はそろりと神楽に近づいた。

(まぁ、こんなのに手ェ出そうとしたら返り討ちに遭うのがオチか)

器用に傘を立てかけて、日を避けて長い草に埋もれるように神楽は眠っている。緑の地面に赤い服が映えた。
起こそうかと考えて側にしゃがみこみ、ぐっすりと眠る様に笑う。

「こんなところで寝てたら危ないですぜィ」
「あんたとかに襲われるから?」
「…なんでィ、起きてたのか」

少し傘を転がして向きを変え、道側から隠れるようにして沖田は顔を寄せる。
唇が触れるか触れないかの一瞬、キスのようなもの。

「…ビビッてるならするなヨ」
「誰がビビッてるって?」

神楽を跨いで、今度こそ触れた唇。離れた沖田の顔を神楽はじっと見上げる。

「…顔怖い」
「ダッ」

すかさず決まった神楽のアッパーをモロに食らい、思わず沖田はのけぞった。神楽はその体を押し返して上体を起こす。

「誰かー変態アルヨー。警察呼んでー」
「いてて…何すんでィ、舌噛みやしたぜ」
「ダッセー」
「誰のせいですかィ」
「自業自得だロ」

コレ、沖田が舌を出してみせる。
じわりと血が滲んできた。甘そうに見える、赤い血。

「そんなの舐めときゃ治るヨ」
「舐めてくだせェよ」
「自分で出来るだロ」
「お嬢さんが舐めてくれた方が早く治るような気がしやせんか」
「…」

神楽は傘を拾い上げてそれを差す。肩に載せて安定させて、迷うように少しの間くるくると傘を回した。

「夜兎の血だからって人には効かないヨ」
「俺には効くかもしれやせんぜ」
「勝手な男」

…そして触れ合ったのは舌の先だけ。
ぬるりとした妙な感触、生ぬるい温度。しかも若干酸味があるのは、例によって酢昆布だろうか。
それでもぞくりと背筋を駆けるものがある。神楽の腕を掴み、引き寄せようとした瞬間、

「ッッ!」
「調子に乗るなヨ」
「…だからって噛まねぇで下せェよ…」
「ところで今何時アルか」
「…さぁ、でももう夕刻ですぜ」
「おかあさんといっしょが始まるアル」
「…そんなの見てんですかィ」
「体操のお兄さんがカッコいいアル」
「…」

じゃーな、と立ち上がる神楽を直ぐに捕まえて。
しつこい男は嫌われるヨ、呆れた声が降ってきた。

「…万事屋よりうちの方が近いですぜィ」
「誰かのうちに行くときは銀ちゃんに許可もらわないと」
「…俺と旦那どっちがいいんでィ」
「銀ちゃん」
「…」

分かってる、聞いてみただけで。
沖田は諦めて手を離し、せめて送りやすと立ち上がった。

あぁなんて厄介な大きな傘、これさえなければぴたりと隣を歩けるのに。

 

 

 


やっと書きたかった沖神を書いた気がする。

041001