今日は朝から雨だった。
しかし晴れだろうが雨だろうが傘が手放せないのは神楽には同じこと。

「…お嬢さん」
「何ヨ」
「これはわざとですかィ」
「……」

神楽は隣を見て少し考えた。隣を歩くのは沖田総悟。
ばたばたと、強くなった雨が傘を叩く。沖田の差す傘から落ちた雨も神楽の傘に落ちてきた。

「…何が?」
「殴りやしょうか」

沖田は神楽の前に腕を突きだした。隊服の袖が濡れている。
背の低い神楽のさす傘の方が沖田の傘の下になり、傘を伝う雫が濡らしたらしい。

「傘でぶつかるのやめてくだせぇ」
「…あいや。悪かったアル、気付かなかった」

雨のことを忘れついいつもの調子で歩いていた。一歩分沖田から離れ、神楽は様子を伺うように沖田を見る。
ふたりの間を雨が落ちていく。強くなった雨はまるで壁のようだ。飛沫が足元を濡らす。

「あーあ、一張羅」
「…」
「俺はお嬢ちゃんのように何着たっていいわけじゃないんですぜィ」
「じゃあ今度私と変わってやるヨ」
「冗談じゃねェ」

声が遠くなった気がした。雨で遮られてるせいだろうか。
何故一緒に歩いてたのかふと考える。彼の市中見回りに、いつからか散歩がてらについて行くようになった。
普段着には見えない隊服に刀を帯びた男と一緒に、赤い傘の自分が歩いているとさぞや目立つ事だろう。それでも沖田は何も言わない。

「なぁ、お前は」
「何?」

雨の音で神楽の声が聞こえない。
沖田は自分の傘を閉じて神楽の傘を取り上げた。咄嗟に反応が出来ない神楽を引き寄せる。

「なんでィ」
「…駄菓子屋行くアルヨ」
「過ぎる前に言って下せェ」

神楽の手を取って沖田はUターンする。
どさくさ紛れに捕まれた手に神楽は焦って振り払った。

「どうしやした?」
「…セクハラで訴えるヨ」
「そんなもんもみ消しまさァ」

濡れた袖が伸びてきて再び神楽の手を捕まえた。ゆっくり引かれて歩き出す。
傘から落ちた雫が頭に落ちて、髪の隙間を伝っていった。ひやりとした感覚。

「お嬢さん今日は財布持ってるんでしょうね」
「持ってないアル」
「俺は払いませんぜィ」
「酢昆布ぐらいでけちけちすんじゃねーヨ」

雨が降ってる間だけは大人しくしておいてやろう。暴れると水たまりの泥が跳ねるから。

 

 

 


か…かわい〜感じで書こうと思ったんだけどさ。思ったんだけど。
自分より背の低い人の傘は凶器。

040824