罪
「…もうやめなせェ」
「…」指を折って数えていた手を上から包んで塞ぐ。
神楽が前髪の間から沖田を睨む。「殺した人の数なんざ忘れるもんですぜ」
「…お前は」
「そんなの数え切れません」
「酷い男アル」
「…前に夜兎族をひとり斬った」
「!」
「そいつはあんたみたいに泣くことはなかったぜ」夜兎の血に感謝をしていた。
好き勝手に戦いを続けていた。「だからあんたも戦うの好きだと思ってやした」
「…戦うのは好きネ」でも誰も殺したくない。
はらはらと落ちる涙は神楽の服が吸い込んだ。握り直した沖田の手にも涙は落ちる。「…あんたのせいじゃない」
沖田はきつく神楽の手を握る。
土に汚れた神楽の指先に力が入ることはない。「こいつは始めから死んでたんでさぁ」
「知ってるアルヨ」掘った穴に横たえられた鳥に目をやり、沖田は眉根を寄せて目を伏せた。
神楽の涙が手の甲に落ちる。ひたりと肌を伝い、神楽の手と繋がる。「だから泣かないでくだせぇ」
俺はあんたを泣かせたかったわけじゃない。
沖田が斬った鳥だった。巣から落ちてもう動けなくなっていた。「かわいそう」
「…なぁ、泣きやんでくだせぇよ」
「私も止めたいアル」土に汚れた手では涙が拭えず、沖田はスカーフを抜いて拭いてやる。
それでも絶えない涙。その体のどこから出てくるのだろう。「……」
手を握ったまま片手で肩を抱き寄せる。押し返しもしなければ文句を言うこともない。
もう辺りは薄暗くなっていた。綺麗な夕焼けではなくて良かったと思う。今だけは真っ赤な空なんて見たくない。「今日は調子が悪いネ」
「そうですかィ」
「自分が言うこときかないアルヨ」沖田の手を退けて、神楽はゆっくりと鳥を埋めていく。
「…お嬢さん、帰らなくていいんですかィ」
「言われなくても帰るヨ」
「…キスしたくなってきた」
「ざけんな」良心の呵責は感じない。
彼女を泣かせたのは結果的には自分だ。それはある種の優越。「明日花でも持ってきまさァ」
「…あんたなんて嫌い」
「至極光栄」
サディスティック星の王子だから。いやマゾかこれ・・・
040822