狐の嫁入り


   一

 

 

「…また土方さんは出かけていくのかィ」
「いい女見つけたらしーっスね。今度こそ本物だとかなんとか言ってましたけど」
「くっだらねぇ」  

塀の向こうを土方の頭が通り抜けていくのを見ながら、沖田はあまり興味がなさそうにお茶をすすった。麦わら帽子に鎌と軍手を手に、せっせと庭の草むしりをしていた山崎は手を止めて空を仰ぐ。以前は雑用ばかりしていた山崎をみっともないと土方が叱咤したこともあったが、この頃はめっきり出ずっぱりで、山崎を見かけることもない。よほどいい女なのだろう。  

────数年前、真選組が創設された。近藤を局長に、貧乏道場時代の仲間に新たに隊士を加えた少数精鋭の特別警察は、目下のところ暇であった。小物の攘夷派残党をラッキーで捕まえた程度で、まだ業績はない。元より新参者の、しかも侍風情に大した仕事が回される筈もなかったのだ。それでも一応政府の認めた集団であるから給与はそこそこに出る。若い沖田辺りはどういった使い方をしてるのか知れないが、もっと年齢のいったのは近藤、土方を含めて夜は遊廓へと向かう。数年後には遊廓は禁止されるが、この頃は最盛期と言えよう。天人も政府の高官も、そして攘夷派残党もまだ金があった時代だ。  

まだ暦の上では春だというのに夏のような暑さで、山崎は流れる汗を拭って仕事を続け始める。沖田は縁側から、空を横切る天人の船を目で追った。なんとも言えぬ轟音が空の高いところで響く。ぬるくなったお茶をすすった。

「山崎ィ、アイス」
「…俺はアイスじゃないです」
「知ってらァ」
「…」
「じゅーうきゅーうはーち」
「ギャッ無理です!」
「走れ下っ端!」
「うぅ…俺んが年上なのに…」
「いっぺんでも俺に竹刀当ててから言え」
「行ってきま〜す…」  

草むしりセットを縁側に残し、沖田から小銭を受け取ってタオルだけを手に駆けだした。いい加減に見えて沖田はこういうことに関してはきっちりしている。タオルで汗を拭きながら、綿毛の蒲公英の並ぶ道を走った。一緒に向日葵が背を高くしている。確かに春なんだけど、と疑いながら。ここのところ妙な気象異常が続くのだ。昔の人間などは天人のせいだと古来よりの神に祈る。

「土方様」
「!」  

不意に耳に飛び込んだ声に、山崎は足を止めて辺りを見回す。実は土方に、沖田に菓子類を与えるなと釘を差されていたのだ。沖田は、勿論わざとであろうが、土方の部屋で物を食べる。日頃からボロボロこぼしながら食べるなとしつこいほどに言われる復讐なのだろう、土方の部屋に蟻が湧いた。

「またいらしたの?お忙しいでしョうに」
「暇だよ」
「あん、お煙草は」
「お、すまん」
「禁煙なさったら?値段が上がるんですッて」  

────そこだ。山崎は振り返り、少し辺りを伺った。背後の大きな屋敷の塀に登り、木で隠された辺りで中を覗く。庭に土方の背中がある。この陽気にジャケットを脱ぎながら、足元には踏みつぶした煙草。女がジャケットを受け取った。────なんとなく、違った雰囲気の女だ。違和感の訳にはすぐ気付く。腰まであろうかという、長く真っ直ぐな髪が背中で波打っていた。最近の女達にそこまで髪を伸ばす者はいない。おまけに結い上げてもいないのだ。日を受けて光る狐色もまた、異人の血でも混じっているのかと言う様子。落ち着いた色の着物は古い物に見える。  

この屋敷は誰の物だっただろうか、山崎は考えながら女の観察を続ける。首のほっそりした女だ。白くこそはないものの綺麗な肌をしている。唇と目尻に商売女の様に朱をさしていた。昼間であるのに遊廓の女だろうか? 土方と和やかに、庭を見ながら談笑している。年の頃は土方と同じぐらいだろうか、しかし古風な女性のようにしとやかに笑う様子はずっと大人のようにも見えた。彼女が笑えば土方も笑う。後ろ姿ではあるけどもそれがわかって、山崎は少し眉尻を下げた。それからそっと塀を飛び降りる。

「遅い」
「ぎゃあっ!」
「でかい声出すと見つかるぜィ」
「な…お、脅かさないで下さいよ!」  

どこから現れたのか、山崎の麦わら帽子を被った沖田がアイスを手に立っている。しかも着ている物が袴では、とても真選組の隊長、否、下っ端隊士にすら見えない様子に山崎は溜息を吐きたくなった。

「食うかィ」
「…俺の方が年上なのになァ」
「あんな男 好きになったのが悪ィ」
「…下さいよ」
「自分で買え」
「……理不尽だ…」

 

  *  

 

そもそもそこから間違っていたのだ。山崎はブチブチと雑草を引き抜きながら溜息を吐く。そもそも山崎は道場時代からの仲間ではない。しかし近所に住んでいてそこそこに親しくはあった。  

土方に惹かれている自分に気付いたときのあの思いは言い表しようもない。女から見ても賛否両論のあの男、男からは極めて人気がなかった。…のは表向きのこと、スマートな立ち振る舞い、毅然とした態度や太刀筋が、男共をある種の羨望のような感情で引きつけた。だから山崎も、あの日までは自分もそうだと思っていたのだ。今日のような、陽気な春の夜まで。

「────…ハァ…」  

何でこんな思いをしなくてはならないのか、それは自分が男であるから。せめて近くにと隊に入り、偶然にも身近な役職を与えられた。彼に体ごと命を掛けようと。…こんな思いをするために側にいるわけではないのだ。

「山崎は甘ェんだ」  

縁側の沖田はアイスの棒をくわえたまま、それを山崎の方へ向けて喋る。

「欲しいモンは奪うモンだ」
「…欲しいものは、守るものです」
「…あっそ!」  

ぷっと棒を吐き出して、沖田は立ち上がって縁側にそって行ってしまう。砂にまみれた棒に目をやって、山崎は改めて溜息を吐いた。────そう、一生傍に控えると決めたのだ。何を溜息を吐くことがあろう。彼が順風満帆であるように望むだけ。

「山崎」
「は…ハイィッ!」
「何キョドってんだ」  

縁側の土方の姿に若干後ろめたさを感じた。覗き見のような行為の後だ。

「えへへ…お帰りなさい、早かったんですね」
「…まぁな。仕事が入った」
「はい」
「今度殿様のところに嫁がくる。その護衛だ」
「はい」
「嫁の方は貴族の娘。家からのルートやらのチェックを頼む」
「わかりました。すぐに」
「今更勢力拡大したって遅いのにな」
「…やっぱり政略結婚とかそういうのですか」
「それしかないだろ」
「…副長の方はどうなんです?」
「何が」
「将来的に。ご執心の女性がいらっしゃるでしょ」
「ば────バカ言うな」
「え?でも」
「…彼女が花嫁だ」
「……」  

彼が幸せであれと願うだけなのに。

 

 

 

 

 

   二  

 

 

隣で沖田が大欠伸をしたのを、山崎は慌てて口を塞いだ。睨まれるのは理不尽だが、殿様の御前である。誰だ沖田を連れてきたのは、近藤だ。自分の娘が嫁に行くようににこにこしている近藤を見て溜息を吐きそうになる。否、自分の娘であれば相手が誰であろうと嫁にはやらないかもしれない。どちらかと言うなら殿様の父親か。  

その隣の土方を見る。煙草を探しかけ、今日は置いてきたのを思い出したのか手を膝に戻した。表情はいつもとなんら変わりはない。落ち着き払って事実だけを見つめている。  

────本日は結納の議。山崎の給料などではひとつも補えぬ立派な品々が目の前で納められた。本来同席の予定はなかったが、目的のわからない脅迫状のような物が届いたのだ。揶揄ったような文章で、悪戯であるとの見方が強いが見逃すことは出来ない。なので手間を避けるために花嫁道具も一緒に運び込んであった。山崎はそれから花嫁へと視線を移した。先日と変わらぬ長い髪は今日は緩く結われ、白粉もはたいてある。例の目尻の朱もさしていた。何か慣習的なものなのだろう。  

やがて打ち合わせのために近藤と土方、そして先方の責任者が退室する。主役の二人もそれぞれ部屋へ戻り、山崎と沖田が残された。

「山崎ィ、今のうちにあの魚捌け」
「勘弁して下さいよ…」
「しかし結婚って面倒なもんだな」
「今回のは立場や世間体もありますからね」
「俺ァ嫁なんか要らねぇな」
「…」  

山崎も自分のそんな姿は想像出来なかった。土方はどんな思いなのだろう。考え込んでいるところに、沖田が山崎の袖を引く。

「山崎山崎」
「はい?」
「あれ」  

何かと沖田を見れば彼は調度品を指さした。運び込まれた花嫁道具が、────立ち上がった。

「ッ!?」  

小さな足で鏡台が歩き出し、タンスは重そうに体をひねる。

「な…な…」
「面白かろう」
「!」  

山崎が振り返ると殿様がいて、山崎は反射的に正座する。いい、と許しを得たのをいいことに沖田はあぐらをかいたまま彼を見上げた。若すぎる殿様は沖田とまだ同じ頃だ。

「あれは?」
「花嫁道具だ」
「…俺の知ってる鏡台は歩かねぇぜ」
「私も家具が動くのを見るのは初めてだ」
「…家具、が?」
「ふむ、なかなか有能だな。先日は提灯が歩いておったのだ」
「…」
「それがあやつよっぱらっておっての、足を滑らせて溝に落ちたのだ。あれは傑作であったぞ」
「…差し出がましいかもしれませんが、自分は花嫁様について調べさせていただきました」
「そうか」
「彼女は、────十年前死んでるはずですね?」
「そうだ」
「なんでィその話。話しにくいから殿もこっち座れ」
「隊長!」
「いやいや、構わん。面白い男だ」  

彼は笑って二人の前に座ろうとした。山崎がどうにか座布団だけでも差し上げる。

「名は?」
「沖田総悟」
「おぉ、お前が噂の沖田か。いつぞやは派手に立ち回ってくれたらしいな」
「…あぁ…あのちょんまげ達か。あんたの部下か?」
「隊長!」
「そっちも楽にしてくれ、いや、私の方が年下かな」
「それは気にしなくていいぜィ殿様、こいつは犬だと思って扱えばいい」
「あのですねぇ!」
「お手!」
「〜〜〜!」
「はは、愉快なやつらだな」
「こいつと一括りにしねぇでくれ」
「それはこっちのセリフですー」
「生意気」
「……」  

その間にも鏡台は短い足でスクワットを始め、タンスはおっさんのように深々と溜息を吐いていた。打ち掛けはダンスを始めて小物は囁き合う。

「彼女は何者ですか」
「知らん。私は無知での。見当はついておるか?」
「…狐」
「…ふむ。狐ならばもっとうまく化けような」
「……ですよねぇ…」
「何の話でィ」
「本来あの娘は二一です」
「…ありゃどう考えても三十路前だ」
「だから変なんです」
「まぁ構わんのだろうな」
「…何か知っておられますね」
「いいや、何も知らん。なんとなくな」
「…」
「んで、殿様」
「…隊長」  

殿様はからから笑い、山崎は居心地の悪さにもぞもぞと正座の足を動かした。

「光起でよい、呼んでくれ。折角母からいただいた名であるのに誰も呼ばんのだ」
「じゃー光起」
「隊長!」
「本人がいいって言ってんだ。あんたは年上好みかィ?」
「はは、嫌いとは言わぬがの。沖田はどうだ」
「三十路なんざ女じゃねぇぜ」
「隊長のお姉さん三十路越えてるじゃないですか」
「だからじゃねぇか。あんなの嫁にもらった奴の気が知れねぇ」
「義兄でしょうが…」
「そっちの名は?」
「あッ、山崎と申します!山崎退」
「退?」
「こいつ捨て子なんでィ、両親からもらった唯一のもんがこの情けない名前でさァ」
「勝手に人を捨て子にしないで下さい!ちゃんと育ててもらいました!」
「名の由来は?」
「…父も祖父も真っ直ぐな人で、思い込んだらこう、一直線だったんです。だから母が、俺には退くところを知りなさいと言う意味で」
「いい母だな」
「ええ、父は先の戦で先立ってしまったので女手ひとつで俺を育ててくれました」
「そうか」
「結局その名も効果なかったけどなァ山崎」
「そうなのか」
「…隊長も懐かしい話やめて下さいよ…」
「こいつ少し前に喧嘩始めて引っ込みつかずに大怪我したんでさァ」
「なんと。今はいいのか」
「今は平気です。…ウッカリ肋やって、しばらく仕事させてもらえませんでした」
「山崎、自分は大事にしろ。ただでさえ私はお前らの存在が気にかかる」
「それはどういう意味でィ」
「これ以上私に関わって傷つく者を見たくないのだ」
「光起様…」
「馬鹿言うな」  

沖田が静かに光起を見る。声調は打って変わり、鋭い視線に怯むのがわかって山崎は彼を制した。────山崎とて思いは同じであるから止めはしない。

「俺は会ったこともねぇあんたのために働いてたわけじゃねぇ。俺は俺がしたいように、近藤さんの傍にいるだけだ」
「…そうか」
「悪いがうちはお上のため、なんて思ってるのは馬鹿なあの人ぐらいでね」
「そうだな、あれはよい男だ」
「人が良すぎて女にモテねぇ」
「イヤあの人がモテないのはそれだけじゃないっスよ」
「まぁな」
「────そういえば」  

足を滑らせた鏡台の角がぶつかり、腰を押さえながら山崎は口を開く。鏡台は鏡が割れていないか自身を確認した後、山崎を睨む。

「あなたは何故人でないと思いながら結婚を?」
「簡単なこと。────私は彼女が好きなんだよ」
「…彼女は…?」
「…知らぬ」  

彼は諦めたように笑った。  

────土方は何を思っているのだろうか。急にえも言われぬ不安のようなものを覚え、山崎は視界がぐらついた。

 

   *  

 

この度はおめでとう御座います。型どおりの挨拶の後、声を待って土方は顔を上げた。ここ最近毎日顔を合わせていて、ただ今日から変わるのはお互いの立場。女は緩く微笑んで土方を見つめる。

「…たかが嫁入りで面倒かけます」
「たかがなど。一生に一度の晴れ舞台ではないですか」
「そう…そうね…」  

軽く伏せられたまぶたが震えていた。土方は目をそらして畳を睨みつける。身分のある女だと、わかっていたのだ。立ち振る舞いや衣装から見て取れるのを、無知な振りをして彼女に近付いた。部屋はむしむしと変に暑い。

「────窓を開けましょうか」  

土方は傍の窓へ手をかけた。屯所とは違って素直に窓は滑り、入り込んだ風が彼女の髪を撫でる。はっと急に彼女が顔を上げ、土方が異変を察知する前に彼女は立ち上がった。

「危ない!」
「!」

女に押されて土方は後ろへ倒れ込んだ。殆ど同時に何かが頭上を走り抜ける。強か頭をぶつけてしばし呻き、それから腹にかかる重力を感じて慌てて上体を起こした。自分に覆いかぶさっている彼女の肩に手を添える。前へ流れてきた髪が彼女の顔を半分覆い隠し、それをゆっくりと白い指がかきあげた。

「…お怪我は?」
「それは私のセリフです。土方様は?」
「私は…」  

土方が目線を上に流せば、さっきまで頭のあった位置で壁に刺さった弓矢が上下に揺れていた。

「…助かりました。────立場が逆になってしまった」
「私は守られなくとも大丈夫です。怪我はしない」
「────あなたは、犯人を知って?」
「…反対してる者がいるんです」
「…」
「あの方をお守り下さい。私のせいで巻き込まれてしまッた、優しい方を」
「…俺は!」
「!」  

彼女の腕を掴んで引き寄せる。見つめた彼女の目は不思議な輝きに満ちて、そのまま土方を飲み込もうとするかのように見開かれていた。

「俺はあんたを守るためにここまできた」
「…」
「そうでなきゃ、殿様なんて一生関係ねぇ」
「…土方様」
「…」  

すみません、と、土方は静かに手を離す。女の目が曇った。土方は彼女を離れて立ち上がり、壁に突き刺さった矢を引き抜く。

「頭を冷やしてきます」
「土方様」
「ひとりにさせるわけにはいかないので代わりの者を寄越します。無礼をお許し下さい」  

深く礼をして土方は部屋を出る。矢を握った自分の手を見下ろした。

「…山崎か、総悟か…」  

迷う余地はなかった。考えることがほしかったのに頭は空になり、手に残る感触を消そうと、矢が折れそうなほどに握りしめた。

 

   *

 

「嫌です」
「…どうした?」  

いつにない頑な山崎の態度に、怒ることも忘れて土方は聞き返す。大抵の仕事は内容も聞かずに受けることもある山崎がどうしたのだろうか。

「…俺なんかで粗相があってはなりませんので」
「人外でしかも恋敵の面倒なんか見れねーってよ」
「は?」
「隊長ッ!!何でもないです!」
「なんであんたが見てないんでィ、人妻とは言え好いた女だろィ」  

沖田の爆弾発言に山崎の血の気が引く。土方が睨みつけてくるのを沖田はにやりと笑い返した。

「あーそうか、まだ人妻じゃなくておまけに好きな女だから具合が悪いんですねィ?安心しなせェ、俺がしっかり守ってやりまさァ」  

沖田は立ち上がって腰の獲物を差し直す。何も喋るなよ、と山崎が視線を送るのにもやはり笑い返され、山崎は嫌な予感が拭えない。

「尻尾見せてもらってくらァ」
「尻尾?」

余計なことを!山崎はどきどきうるさい心臓を抑えて土方の視線を避ける。ふとタンスが目に入り、あれだけ激しく踊っていた打ち掛けが大人しくなっていた。

「…?」  

踊り疲れたのだろうか。そう言えば土方が来てから彼(もしくは彼女)達は動きをやめている。

「…副長、彼女と妖怪の話なんかしませんでしたか」
「妖怪だァ?…したことあるかもしんねーが覚えちゃいねぇよ」
「苦手とか、そう言うこと言わなかったですか?」
「知らねぇって。何だよ」
「…別に、何でもないです」  

山崎は動きを止めた調度品を睨みつけた。彼らも山崎と同様に忠実であるだけなのだろう。土方には悟られたくないのだろうか。話したことのない女を思いながら土方を見た。煙草を探して手がうろうろしている。

「…買ってきましょうか」
「いや…いい、城内だ」
「外なら構わないでしょうから」
「…あー…自分で買ってくる」
「はい。────一緒に、」
「何だ?」
「…いえ、何でも」  

土方が城の人間に一言かけて部屋を出ていく。一緒に行こうなどと、とっさに面白いことを考える。山崎は自分を笑う。傍で役に立つだけでよかった筈なのだ、彼の手となり足となり、捨て駒のように使われようとも。────あの女のせいで?それならば恨むばかりだ。  

山崎はひとりになった部屋で目を閉じる。