い つ か 、 ま た こ の 地 で

 

「よう爆弾娘、ターミナルに何の用でィ」
「…最悪アル。お前一番会いたくなかったヨ」

傘で顔を隠して神楽はうつむいた。今日はあの大きな犬も、何年経っても過保護な保護者達の姿もない。傘の下から覗く体は女のそれで、いつもと違う一面を垣間見る。

「────最後までうっとうしい奴ネ。まぁ今日のところは許してやるヨ、心にお前なんか留める隙間は残ってないからナ」
「遂に敗北宣言か?それとも出国かィ」
「大当たりヨ、お巡りさん」

傘を閉じて神楽は沖田と対峙する。出会ってから変わらない、トレードマークのチャイナ服。控え目に入ったスリットは、彼女の保護者が強制していたものだが、自分自身力のセーブをするためだといつか言っていた。

「────何て?」
「だから、出国ヨ。パピーが江戸に来てたから、待ち合わせて一緒に行くアル」
「…冗談だろィ、あんたみてぇな弱っちい奴連れてくなんて自殺行為だぜィ」
「吠えるなヨ。────気づかないほど雑魚じゃないダロ」
「……」

戦闘種族・夜兎────年々その力を表出させていく神楽は、正直に言えば驚異だった。だから…しばらく避けていたのは事実だ。本気を出されたら勝てない。鍛えられた自身の勝負勘でわかってしまった。その真っ直ぐ伸びた姿勢を見るのは久しぶりだ。

「パピーと修行するアル。力のセーブする方法とか。パピーといれば自然、暴れても大丈夫なとこにしか行かないから」
「…逃げんのか」
「逃げてたのはどっち」
「っ!」

自分だけが子どもなのだろうか。近藤はなんだかんだで意中の人を射止めたし、あれだけ派手にやっていた土方もすっかり貫禄が出て、ひとりの女を見ている。万事屋の経済状況は相変わらずだが、それはわざと楽しんでいるようにも見えた。テロリストたちの数も減り、しかし桂や高杉はより力をつけている。
あの────あの昔、時にはほのかな思いを感じた相手は、やはり自分の手に負える女ではなくなった。

「じゃあね、総悟」
「…かぐ、」
「最後に挨拶したのはそよちゃんだったのに、お前になっちまったヨ」
「…挨拶なしで行く気だったのかィ」
「…だって、約束したくなるから」
「約束?」
「私また戻ってくるヨ」
「…そうかい」
「戻ってきたら会いに来るから、すぐその場でプロポーズしてネ」
「ッ、ハァッ!?」
「じゃないと私銀ちゃんと結婚しちゃうヨ」
「……それ、どれぐらいマジ」
「十割アル」
「なん…」
「好きじゃないなんて言わせないヨ」
「か」

神楽ちゃん、沖田じゃない声が呼び、神楽が振り返った先に頭の気の毒な中年が立っている。宇宙最強を謳われるえいりあんばすたーにして神楽の父。

「……なぁ、それって、あの頭の涼しいおっさんと戦ったりする?」
「かもナ」

せいぜい励むヨロシ…綺麗に笑い、神楽は何か投げて寄越した。とっさに受け取った小さな箱は、流石に近年は食べ歩きをしなくなった酢昆布だ。それに気を取られているうちに、彼女の姿はなくなっている。

「…神楽」

お前はいつも狡い。人の心を置いてけぼりにして先へ先へ行ってしまう。

(名前ぐらい呼ばせろよ)

 

 


未来の話でした。最近素敵サイト様でみかけて(銀神だけど)クリティカルきてしまって。
金魂神楽ほど大人ではないはず。お妙さんぐらい?沖田はどうしても成長したイメージができなかった。

050730