最 初 で 最 後 の 約 束

 

柄にもなく花など摘んできたので、きっとそうなのだろうなと思っていた。何となくわかってはいたのだ、自分もこの男も、あんな言葉に馴染むはずがなかったのだ。────結婚、なんて。
だからここぞとばかりにそう決めたに違いない。

「…誰の入れ知恵だ?」
「…桂?」
「あいつの思いつきそうなことよ」

笑って陸奥は花を受け取る。こんな時勢、よくも花など見つけてきたものだ。
高杉は居心地が悪そうにキセルをふかす。陸奥の渡したそれは気に入ってもらえているようで、それだけでいいと思った。

「俺────行くわ」
「そうか」
「だから」
「わかっちゅう」

泣いて引き留めるほど馬鹿じゃない。陸奥の声を高杉は黙って聞く。
野の花を一本手に取った。あさましく、悩むふりをしてるようになったので手を降ろす。

「────…また、いいの見つけろ」
「いらん」
「…」
「おんし以外、いらん」

だからもう何も欲しくない。

 

高杉が衝動的に腕を引いた。驚いて目を見張る陸奥は泣いていない。
────気のせいだ。泣くような女ではないことはわかっているのに、…泣いて欲しいとでも思っていたのか。

「────俺が」
「…」
「…俺が、死んだら、」

どうする。声がうわずった。

「────埋めてやる」
「 」
「どうせろくな死に方せんのじゃろ。わしが埋めてやる」
「…陸奥」
「…でも、連れていってはくれんのだろう」
「…」
「だから、約束は出来んぞ」
「…あぁ」

ゆっくり手を離す。腕が赤くなっていた。

「出来れば」
「…」
「…違う、嘘だ」
「────約束する」

死ぬなというなら死にものぐるいで。戻ってはこないけれど。

 

 


高陸奥の関係を考えたときに何故かこういうことに。攘夷戦争に行く前に。

051030