ま た 明 日

 

「ざっけんなゴラァッ!なめてんじゃねぇぞペチャパイがッ」
「…とあっ!」

廊下を追いかけてきた高杉を確認し、神楽はくるりと体を返した。タイミングをはかって踏み切って、跳び箱の要領で高杉の頭を飛び越える。

「〜〜〜〜!死ねッ!」
「悔しかったら捕まえてみるヨロシ!」
「上等ッ」

セーラー服を翻して走り出す神楽の、一瞬の間を逃さずに高杉は手を伸ばす。襟を掴んで引き倒され、神楽のかけた眼鏡が飛んだ。

「グッ」
「おら、さっさと返しやがれ!」
「…」

廊下に神楽をつなぎ止め、高杉は首を掴んで見下ろした。神楽が顔をしかめて睨み返してくる。

「…オマエが…」
「あ?言い訳なんざ聞かねえぞ」
「オマエが今壊したアル…」
「…」

スカートの背中側に挟んでいたものを、神楽はゆっくり取り出した。イテテ、背中をさすりながら高杉にそれを差し出す。

「…おい」
「オマエが欲しがってたそよちゃんの手作りクッキーだったものアル」
「…テメェ〜…」
「オマエのせいアルヨ!」

神楽の体重で無惨な姿になってしまったクッキーは高杉のポケットに押し込まれ、神楽の両足を掴んで高杉は立ち上がった。スカートが上がって下着が覗く。
その側や教室から他の生徒がふたりを見ているが、放課後のこのやり取りは見る方も見られる方ももう慣れてしまっていた。彼らは被害が及ぶ前にと退散していく。

「素っ裸にして屋上から突き落としてやる!」
「ケツの穴のちっさい男ネ!そんなんじゃそよちゃんを幸せになんかできないアルヨ!」
「やかましい!」
「人のモンに何してんだコラ」
「!」
「あ、トシロー」

高杉に足首を掴まれたまま、神楽は腹筋で体を起こす。ぎょっとする高杉の頭を越えて、それを踏み台に神楽は土方に飛びついた。くるんと回って肩車の状態になる。

「スギーにセクハラされたアル」
「クッキーごときで心の狭い男だな」
「へっ、テメェにゃ縁がないからってひがむんじゃねぇよ」
「…」

土方はちらりと神楽を見て、黙って目を逸らした。先日の調理実習は思い出したくない。

「高杉、お前また職員室に呼び出されてたな」
「それがどうした」
「あんまり目立つと俺だって考えるからな」
「…」
「トシー、帰るアル」
「神楽、そよ様は?」
「教室アル」
「つか降りろテメ」
「いいじゃーん、ほれほれ太股アルヨ〜」
「…」

ふたりが(土方が)歩いていき、高杉は舌打ちをして傍の教室のドアを蹴る。きゃっと悲鳴が聞こえ、聞き慣れたその声に高杉は慌てて教室に飛び込んだ。

「あ、」
「なっ…何してんだよッ」
「…あの…」

ドアの前で座り込んでいたのは、自分の教室にいたはずのそよ。今土方達が迎えに行ったのに。

「…あの、ごめんなさい。神楽ちゃんが」
「あぁ…お前が謝るな」

そよの隣に腰を降ろし、高杉は溜息を吐く。────身分違いなど、十分承知しているのだ。教師に目をつけられている自分なんかと付き合っていることは、彼女にとっていいはずがない。高杉だってわからないのだ、彼女がどうして自分を選んだのか。悪い男に憧れるにしても、相手が悪すぎると自分で思う。

「…あのね」
「…」

差し出されたのはクッキー。今度は粉砕していないもので、さっきのとは違った包装がしてある。

「神楽ちゃんが取っちゃうとは思ってたし」
「…」

黙ってそれを受け取った。若干申し訳なさも感じながらリボンを解き、クッキーを口に放り込む。

「…うまいよ」
「よかった」
「…」

笑ったそよの口にクッキーを差し、驚いてる隙に唇を奪う。否、奪おうとした。

「なんばしょっとねーッ!」
「ッ!!」

即頭部を蹴り払われ、高杉は勢いよく体ごと飛んだ。ドアの上部にぶら下がった神楽の懇親の一撃、高杉は頭を抱えて悶絶する。何人だテメェとつっこめる余裕もない。

「さっそよちゃん!帰るアル!」
「あ、でも」
「あんなやつほっといたって死にません。帰りますよ」
「…」

土方が廊下から手を出して、そよはためらいながらもそれを取って立ち上がった。畜生、誰へとなくののしって、高杉はどうにか体を起こした。だからそよ相手はいけない。周りが意識出来なくなる。────認めたくない事実だが。

「たッ…高杉さん、また明日!」

教室を出る一瞬前に声をかけ、そよはなかば引っ張られるように帰っていった。嵐が去ったようだ。

「…また明日」

また明日、明日こそ。

 

 


高そよで土神なんです。ありえんと言われたので書いてみた。
これはそよちゃんがお嬢様で、それのお付きが神楽なんだけど一個上の高杉と親しくなってきたので、高杉の監視に土方が転入してきたのです。ドリー夢ですが何か?

051008