貴 方 の 特 等 席

 

気付くと土方は窓辺でうとうととしていた。火のつかない煙草を持ったまま、ライターは畳に落ちている。そよは縫い物の手を止めて、そっと土方のそばへ近付いた。瞬きを繰り返す瞼が開いたときにそよを確認してか、土方はこちらへ手を伸ばす。優しい手がそよを抱き寄せた。
温かい胸に抱かれて息を吐く。柔らかい着流しの下、 しっかりと巻かれた包帯。────そよの為に受けた傷。さっきまで刀を握っていた手が肩を抱く。

「…誰とお間違え?」
「またご冗談。間違えたふりぐらいさせて下さい」
「…それならその言葉遣いはおかしいわ」
「あなたは賢い。いいよ。もっとこっちだ」
「…」

深く胸に抱かれて緊張する。これほど、痛いほど側にいるのは初めてだ。煙草の匂いがする。土方がいつも吸っている慣れた匂い。自分の前では吸わないが、衣類に染み着いているのだ。

「…傷は平気ですか?」
「イテェよ。俺ァサイボーグじゃねぇんだ」
「…」
「でもお前のせいじゃない」
「…でも」
「俺が勝手に怪我したんだよ」
「……」
「…文句言う気ならもーちょっと立派な女になってからにしてもらおうか」
「きゃっ!」

撫でられた尻に慌てて手を回して土方の手を払う。真っ赤になって睨みつけると土方は余裕の表情で笑った。

「嫌な人!」
「知ってる」
「もう…本気で心配してるのよ!」
「そいつァ嬉しいね」

また優しく抱き寄せられて調子が狂う。もう諦めて体を預けきってしまった。わかってる。これ以上のことはしてこない。

「────俺が死んだらどうする」
「!」
「多分そのうちくたばるぞ」
「…意地悪」
「お前にしか聞かねえよ」
「────あなたが、亡くなったら…?」

父の物とも兄の物とも違う指先が髪を梳いて毛先をもてあそぶ。

「…あなたがいなくなっても、私は笑わなくてはいけない」
「…」
「あなたが死んだら悲しさもみんな押し殺して、あなたがいつか私をさらってくれることを夢見ていたなんて忘れなくちゃいけないのね」
「…そうしてくれ」
「だけどあなただけよ」
「…」
「私にこんなことを出来のはあなただけ。他の、例え私が結婚した相手でも、このような無礼なこと許さないわ 」
「…厳しいお姫様だ」

優しい手。だから冷たい手。

「すんませんねさらう甲斐性もなくて」
「いいの 今はこのままで」
「…ずっとねぇよ」
「…私が成長しても?」
「欲しくはなるだろうけどな」
「…それでも、あなただけだわ」
「…」
「まいったな、全く」

 

胸の上で眠ったそよの髪を触りながら溜息を吐く。彼女が滑って行くからそれを支えれば、とばっちりに押し倒されてしまった。今日は心労をかけたから疲れていたのはわかるが、…この体制は、非常にまずい。

(…勃ったらどうすんだこれ…いー感じのポジション…)

頼むから動いてくれるなよ。小さな姫君に溜息を吐いた。

 

 


無礼講で!無礼講!

051109