リ ア ル お ま ま ご と

 

「おいテメェ…何してやがる」

見廻り中に沖田が消えたと思ったら、なんてことはない、公園にて少女とふたり、砂場の側に敷いたピクニックシートに向かい合って正座して、こんもり砂の載った欠けた茶碗を手にしていた。
ピンクの髪に異国の衣装、大きな傘を差す彼女はどこかぽかんとして土方を見ている。万事屋の神楽だ。こんなに仲がいいとは知らなかった。
見つかっちまった、と沖田が飄々と言ってのける。

「よーし、いい度胸だ」
「大変!」

少女がばっと立ち上がり、沖田を砂場へ押し出した。茶碗の砂を被りかけて沖田が焦る。

「旦那が帰ってきたわ、今日は遅いって言ってたのに!あなたはここに隠れてて!」
「おい、」
「あ、土方さんそこはドアだから開けなきゃなんねーぜ」
「はぁッ!?」
「がちゃー」

神楽は先に『ドア』を開けた。

「お帰りなさいアナタ、ご飯にする?私にする?それともお風呂?」
「いやいや間違ってるから」
「さぁお疲れでしょ、入って入って」
「ちょッ…」

抵抗しようとするが相手は夜兎族、袖を掴まれれば嫌でも土方は『家』の中に引きずり込まれた。さっきまで沖田が座っていた位置に座らされ、沖田の落した茶碗に神楽が砂を盛る。

「はいどうぞ、ご飯です」
「……」
「いらないアルカ?」
「頂きます」

がしゃこんと傘を構えられては選択肢が他にない。
ちょっと待てよ俺もう三十路前だぜ!?自分で言いたくねぇけどこの場合別だよ認めるよ俺もうおっさんだぜ!?しかも真選組副長の俺がガキに混ざっておままごとだぁ!? びくびくと周りを気にしながらも、食べてるようなふりをする。沖田の方は見たくない、間違いなく笑っているからだ。

「…おい…俺にこのまま付き合えってか?」
「勿論。ふたりじゃ物足りなかったアル」
「なんでィチャイナ、俺から土方さんに乗り換えるのかィ」
「だってコッチの方が収入多そうネ」
「でも浮気者だぜィ」
「だから私もお前を引きずり込んでるアル」
「どんな設定だ…」
「さぁッ、再開アルヨ!アナタ、最近帰りが遅いんじゃない」
「…………い、忙しいんだよ」
「何よその間は!あたし以外に女が居るんでしょっ!?散々あたしを弄んで要らなくなったら捨てるんだわ!」
「……いや、マジで勘弁してくれ。俺にはノリ切れねぇ」
「ぶー。銀ちゃんだったらのってくれるのにー」
「しょうがねぇなぁ」

ほら、と沖田が手を出してくる。しばらく沖田と神楽を見比べた。じっと、まっすぐ土方を見てくる。

「…なんだその手は」
「出すもんあるだろィ」
「……」 「パパーひもじいヨー」
「急に設定変えんな!あぁッ畜生、うっとーしいなッ!」

ポケットの小銭を適当に沖田の手の平に押し付ければ、今度はみみっちいと眉をひそめられる。いい加減ここまで耐えてる堪忍袋の緒が不思議に思えてきた。ボンドで固定でもされてんのか?
土方の静かな怒りを察してか、沖田がそそくさと駄菓子屋へ向かった。急げヨーなんて神楽がはやす。

「…お前らいつもこんなことしてんの?」
「あ、煙草やだ」
「……」

くわえかけた煙草を奪われた。せめて返せ、取り返した煙草をポケットに押し込む。

「時々ヨ。あいつも忙しいダロ」
「…多分な」
「私おままごとしたことなかったアル。こないだあいつが初めてしてくれたヨ」
「…なんだなんだ、友達もいなかったのかテメェは」
「死んじゃったー」
「……」
「うそ」
「……テメェ」
「夜兎の子ども少ないアル。だから友達いなかったヨ」
「……」
「あいつはいいな、私と遊んでても強いから」
「…あいつも、似たようなもんじゃねぇの」
「え?」
「昔っから近藤さんについて回ってたんだ。剣ばっかりで同じ年頃のガキと遊んでた姿なんか見たことねえ」 「…ふーん」

少し強い風が吹いた。砂場の砂がさらさらと流れてピクニックシートからこぼれていく。さっきまで自分はどうしてここに、と考えていたのに、なんだかどうでもよくなってきた。なぜだかこの少女は無常を感じる。

「…寒い」
「……」

少女の薄着を見て少し迷った。ジャケットを貸すのは簡単だが、そこまでしてやる義理があるのか。悩んでいると少し睨まれ、神楽は傘を閉じて勝手にあぐらの膝に上がりこんでくる。

「おいッ、」
「ロリコンじゃねーならいいダロ」
「…そういう問題か」

膝の上に納まって、少女はジャケットを前へかき寄せた。沖田帰ってくるな。帰ってくるな。必死で願う。

「トシロー」
「……とうしろう、な。ついでに名前で呼ぶな」
「あいつも私より先に死ぬのかな」
「……」
「なんかやだな」

小さくなってうつむいて、この少女に本当に人を殺める力などあるのかと疑わしくなってくる。
甘い匂いがするのは彼女の保護者のせいだろうか。もしかしたらこんな行動を教え込んだのはあの男なのかもしれない。「銀ち ゃん」にもこういう態度なのかと考えると妙な気になってきた。いくら相手が少女とはいえ、保護者感覚で見ら れるのは納得がいかない。

「俺が死んだら?」
「え?」

あ、やべ、変なこと言った。今更取り返しがつかないが、修正するのも妙な気がして黙ってしまう。黙ったままなのも変だと思ったが、代わりの言葉が出てこなかった。

「びっくりする」
「……は?」
「なんか、トッシーは死なない気がするヨ」
「…なんだよそれ」
「だってこんなにあったかい」
「……」

あったかいのはどっちだ。無意識にカイロにしてしまっている自分に気付き、土方は何となく頭を抱えたくなる。

「私を残して死なないでネ」
「…いきなり続きかよ」

ちょっと焦ったじゃねぇか。

 

「…土方ーァ…それじゃストーカーのがよっぽどましだぜェ」
「お、俺じゃない!こいつが勝手に!」
「えー」
「どっからカメラ出してきた!」

沖田に掴みかかりたいがそれが出来ない。膝に落ち着いてしまった神楽は沖田を待ちくたびれて眠ってしまい、そしてそれを起こすほどの勇気も土方には備わっていなかった。

「あークソッ…」

しばらくデジカメを抱えてうろうろしていた沖田だが、そのうち土方の前、神楽の前にしゃがみこんだ。じっと神楽と土方を見比べる。

「……なんだ?いっちょ前にやきもちか」
「脳みそ沸いてんですかィ」
「……」

むかつく。本気でむかつく。

「――――死んでやるなよ」
「は?」
「お前が死んだら、ヤなんだとさ」
「…ふん、その前にあんたがくたばりまさァ」

 

 


あれ?沖神…?ちゃうよ、土神……(挫折)
もっとおままごと書きたかったな…

051031