君 は c i n d e r e l l a

 

「万事屋いるかァ!」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえます〜。何?フクチョーさん耳遠いの?」
「玄関で散々叫んでも出て来なかった奴ァ誰だコラ。猥褻物陳列罪でしょっぴくぞ」
「俺のどこが猥褻だって?何?俺のことそんないやらしい目で見てたの?新ちゃ〜ん警察呼んで〜」
「俺が警察だよ」

こいつ相手だと話が進まねえ、土方は舌打ちをして、ほぼ反射的にお茶を運んできた新八を捕まえる。やっぱり若い子の方がいいって言うの!?バカな大人は無視だ。

「もう一人は?そいつ指名で仕事の依頼だ」
「神楽ちゃんならお使いですけど」
「ヤダ〜ロリコン?」
「テメーは黙ってて下さい。内容はボディーガード。ひとりで寄越せ」
「…神楽ちゃんひとりですか?」
「あぁ。超がつく大物なんでな、悪いがそこの保護者にも詳しいことは話せねえ。帰ってきたら連れてくぜ」
「神楽に何いかがわしいことする気〜」
「聞いてたかボケ老人」

 

*

 

隣に座る少女は平然としていた。普通この年の少女ならば親から真選組には関わるな、と言われているのかも知れないが、少なくとも彼女に限っては該当しない。なんと言っても『普通』じゃない。

「それで、私は何をしたらいいアル」

何も聞かされないまま車に乗せられても落ち着いたものだ。まさか信用されているわけではないだろう。何があっても切り抜ける、絶対の自信があるのだ。

「ボディーガードをしてもらいたい。超要人だから幾つか約束してもらう。まず他言無用。行き先は任せるが賭場には連れて行くな。ま、ボディーガードと言うより遊び相手だな」

車が止まった。既に要人は到着している。

「いいか、12時までだ。12時ぴったりにここに戻ってこい」
「誰?」
「外出りゃわかる」

向こうの車から近藤が降りてくるのが見え、土方は手を伸ばして神楽側のドアに手をかける。

「約束しろ、12時までだ」
「…仕事ならちゃんとするヨ」
「どうだか」
「疑うならどうして私に頼むアル!」
「見りゃわかる。感謝してもらいたいぐらいだ────」

土方がドアを押し開けた。神楽だけ出してすぐに閉める。

「────そよちゃん!」

声はすぐに遠くなった。彼女の元へ走ったのだろう。運転席の山崎が溜息を吐く。

「なんか可哀想ですね。12時までって、シンデレラじゃあるまいし」
「知るか。出会ってること自体が異常だよ」
「そんなこと言ってェ、神楽ちゃん呼ぶのあんたが独断で決めたくせに」
「お前俺に背中向けてるってこと自覚しろよ」

窓の外では悲しく別れたふたりがはしゃいでいる。確かに気の毒な関係だとは思うが、それだって運命だろう。
時間がないのだからさっさとどこかへ行けばいいのに。ふと見れば神楽がこっちへ走ってきて、何かあったのかと土方は外へ出る。

「どうし、うおっ」

走ってきた勢いのまま神楽は突っ込んできて、土方の手前で飛んで飛びついてきた。全身で小猿を受け止めてしまった土方は勢いのあまり車の押しつけられる。

「おまっ、」
「ありがとう!」
「……」
「お前ただのニコ中じゃなかったアル!すごい!」
「…いいから早く行ってこい、時間は守れよ。…ちゃんと守れたら、またチャンスがあるかもしれねぇから」
「ありがとう!大好きっ」
「!」

乱暴とも言えるキスが送られた。土方が呆然とする間に神楽はそよの元へ戻っている。

「…あンのマセガキ…銀髪マジで逮捕した方がいいんじゃねーか…?」
「えっ何何!?なんかあったんスか!?見逃した!」
「お前はいいからさっさとついてけ!姫になんかあったらどうする気だ!」
「は、はいよォッ!……何があったんスか?」
「そんなに刀の錆になりたいか!」

 

 


土そよ書こうと思ったのに神楽が書きたくてしょうがなかったので。

060301