ってればいい最期まで

 

 

カタン!

積み荷の立てた小さな音に、陸奥は足を止めて振り返った。木箱の積まれた倉庫には動く物は自分しかないはずだった。ネズミもゴキブリも宇宙怪獣も先日坂本に始末させた。
しばらく待ってみる。虚空を睨みつけるのは孤独で、陸奥は唇をなめた。

「商品に血をつけてはおらんだろうな」
「クク…そう毎回怪我してたまるかよ」

木箱が喋る。陸奥は溜息を吐いた。

「不法侵入じゃ。明日には地球を出るから今夜中に出て行け」
「今すぐとは言わねぇのか」
「…」

しばらく黙る。
やがて木箱の間から高杉が立ち上がった。相変わらずの笑みを浮かべ、じとりと絡みつくような視線を陸奥に送ってくる。笠がないのを陸奥は心底後悔した。目を反らせない、その分感情を読まれやすい。

「坂本は?」
「また女のところじゃろ、出航前はいつもそうじゃ」
「お前は?」
「わしまで残らずどうする」
「へッ、可愛げのねぇ。たまには紅でもさして笑ってみろよ」
「無意味」

高杉は笑う。クツクツと陸奥を笑い続ける。

「…出て行け」
「茶ぐらい出せよ、客だろ?」
「招いてない」
「そんなつれないこと言うなよ、なァ」

にやりと笑って高杉は陸奥の手を取る。振り払えない。
強ばった陸奥の表情をからかうように高杉が笑って顔を寄せた。殆ど本能的に、陸奥は銃を握って高杉の片目に押しつける。包帯の巻かれた片目の向こうに、際限ない闇が広がっているのだと思った。

「…出て行け」
「…撃てるもんなら撃ってみろよ」
「もう近寄るな」

高杉は笑みを下げない。ずっと陸奥を笑い続ける。

「そうやってッ、笑ってられるなら出て行け!」
「お前はここじゃ笑えないってか」
「お前がおる限り」
「俺が笑わないならお前はどうするんだ?」
「…」

最期まで笑っていればいいのに。
目前に高杉が迫っていた。

 

 


はじめてのたかむつ…精進します

050512