の気配が夜に忍び、

 

 

地を這う低音、喉からの唸り声。しなやかな肢体が闇を駆ける気配。灯を受けて光る水晶のような瞳────

あれは何と言う獣だったか、沖田は遂に思い出せなかった。

 

*

 

片目の男がじゃり、と足元の小石を鳴らして沖田ににじりよった。弧を描いた唇がぱくりと割れて、赤い舌が唇をなめる。

「テメェが噂の沖田か」

夜の散歩をしていたら、とんだものに出会ってしまった。
沖田は一息吐いて刀を抜く。その反応に相手は更に喜んだ様子だ。

「テメェも俺と同じだ」
「…」
「腹の中に黒い獣を抱えてる。牙を剥いて、腹を裂いて飛び出そうとしてるだろう」
「…そうさなァ、獣なんてもんならいいけど」
「ハ、」
「…やるのかィ?やらねぇのかィ?」
「狩る」

闇に刀がひらめく。足音をさせずに忍び寄る、気配。刀を刀で受けた。火花が散って、足を引く。

「…獣?」
「あ?」
「そりゃ自分を買いかぶりすぎだぜィ」
「…」
「可愛い小鳥ちゃんは鳴きながらおウチに帰って寝てなせェ」
「ざけんなッ!」
「ッ 」

踏み込まれて刀を押される。
力だけなら負けかもしれない。否、実力も経験値も。しかし何かが引っかかる。

「高杉、テメェの目的はなんでィ」
「目的だァ?ンなモンはいらねぇ」
「…じゃあ俺の勝ちだ」
「何だと?」
「俺の世界はテメェより広い」
「鳴いてろ!」
「ッ!」

払われた刀の切っ先が頬をかすめた。バレるじゃねぇか、呟いて刀を構え直した。

「暇な奴」

 

────沖田がその獣を見たのはずっと昔のことであった。あれはもしかしたら夢であったかもしれない。
闇の中、足音も、気配さえも闇にとかした獣が一匹。沖田に低く唸って存在をしらしめた。
それは確かに沖田の姿を改め、その上で音もなく消え去った。

あとから聞けばそれはどこぞの金持ちが道楽で飼っていた獣が逃げ出したとかで、ずっと遠くへ逃げてきたのを沖田は見たのであった。
この辺りにも捜索の手は届いていたが結局捕らえられず、近所の鶏が数匹食い荒らされたあとが残っただけでそれきりだった。沖田以外にここらで姿を見たものはいないと聞く。

それならばあの漆黒の獣は何故沖田のところに現れたりしたのか────あの瞳に比べたら所詮吾は赤子のようなものだ。

「誰が獣だって?笑わせやがって、知ってるかィ?高官共がテメェを何と言ってるか。高杉の奴は虚妄癖、あんな小物を捕らえられぬ真選組は所詮能なし、私等が本気になれば餌でもまけば小鳥何ぞ易々捕らえようぞ…」
「ンだとコラァッ!引き込もってるだけのヒヒ野郎共ッ!手始めに下っ端からってだけだ、まずはテメェ…」
「…獣…」

沖田がにいと口端を上げる。あの獣に感じたのは、確かに恐怖であったのだ。

「俺はテメェに負けてやるわけにはいかねぇんでさァ、可愛い可愛い小鳥ちゃん?」
「こンの子鼠が!」

 

 


なんや分からん話に…。高杉は鳥のイメージ…でかいスマートな水鳥。ついでに言うなら土方さんはハ虫類。
わたしの中で獣のイメージは誰かピンと来なかったのでこんな話に。誰だろう、銀さんかなぁ…パンダみたいな感じ…。
沖田はあえて言うなら魚っぽい。フグとか。

050316