らい生きながらえたこの体

 

 

「…昔は雪が降らねぇかと冬が楽しみだったんだけどなァ」

締め切った室内から庭を眺め、沖田はお茶を慎重に口に運ぶ。丁度よく覚めたお茶を喉に流し込むと胃まで届くのか感じられた。
降り始めた雪は溶けることなく、少しずつその身を重ねて積もっていく。

「隊長上着、乾かしますから脱いで下さい」
「ん」
「今すぐ!」

沖田の後ろでハンガーを構えた山崎がその後頭部を軽く叩き、沖田が刀を手に振り返ると慌てて数歩逃げた。それを笑って、上着を脱いで投げつける。

「俺も年取った証拠かねェ、雪が面倒になっちまった」
「またまた、何言ってるんですかここで一番若いクセに。元気有り余ってるでしょうが」
「元気有り余ってんのは土方さんじゃねぇか?毎晩毎晩飽きずに出かけやがる。ビョーキだ」
「はは…。ズボンは濡れてないですか?」
「濡れてる」
「なッ…なに平然とあぐらかいてるんですか!そっちも脱ぐ!」
「山崎も脱ぐ?」
「な…な…」
「この分じゃ相当積もりそうだぜィ、夜の見回りはなしだな」
「…よ、るになったら、でも今はまだ勤務時間です」
「じゃあ面倒だ」
「畳濡れるじゃないですか!」
「それぐらい今更じゃねーか、ここの畳は汗とか汁とか」
「ぎゃーッ!」

耳を塞ぐ山崎をからかうように、沖田は逃げ出す前に捕まえる。
無理矢理引っぱって座らせて、耳を塞いだままの男の口も塞ぐ。戯れみたいな口付け。

「…あの、だから、」
「俺の時計は既に勤務時間終わってんでさァ」
「……」

 

*

 

「俺は、雪は嫌いです」
「んー?」

声を掛けてからうつらうつらとしている沖田に気付き、大した内容でもないので寝てもらおうと山崎は口を閉じる。
布団を取ってこようと立ち上がりかけたのを沖田は引き止め、正座の膝に身を預けた。
何?静かに沖田が聞いてくる。殆ど寝ているような表情に苦笑して、柔らかい髪を梳きながら言葉を落とした。

「雪は、怖いんです。俺は住むところも着るものもないような生活をしてたから、逃げ場をなくされる冬は怖かった。今年こそ死ぬんじゃないかって。去年は死にかけたって」
「…あぁ」
「今の生活は、寒さの中で見ている最後の夢じゃないかって」
「…長ェ夢だ」
「そうですね」

山崎の手に沖田の手が重なった。温かい。
その手に縋るように握り返す。

「でも俺は、きっといつまで経っても思い出す」
「……」
「…俺は最期に、雪が食べたくなるんだろうなぁ」
「雪…」

しんしんと雪は降り続けている。全ての世界に平等に、豊かであろうとなかろうと全ての上に降りかかる。
すっかり日の暮れた庭では雪がぼんやりと浮いて見えた。

 

 


050316