能、それと

 

 

正座で向かい合ってふたり、山崎はごくりと唾を飲み込む。
沖田は相変わらずのポーカーフェイスで、すっと拳を出した。それを合図に

「さいっしょはグー!」

 

「……」
「俺の勝ちッ」
「ぎゃっ!!」

自分のスカーフを解きながら沖田は山崎を押し倒す。
思い切り頭をぶつけて痛みに気をとられている隙に、沖田はジャケットを脱いで山崎の服に手をかけている。そのイキイキとした様子を無言で睨みつけるも、沖田はそれを見留めてにやりと笑うだけだ。
肌蹴た胸に唇を落として、山崎の体が震える。

「…あーもー、俺連敗じゃないっスか…」
「日頃の行いが悪いんじゃねぇか?」
「…それ隊長にだけは言われたくない…ん」

伸び上がってきた沖田に口を塞がれる。
自分より若干高い体温が近い。以前子ども体温なのだとからかったら酷い目に遭ったのでもう口にはしない。
柔らかい舌同士が絡む、ぬるりとした感触。くらくらする。
何となく甘いのは沖田がさっき何か食べていたんだろう。目を開けてみるといやに幼い表情が見えた。

「───ッてちょっと待ったッ、じゃんけんだけって言ったじゃん!あとで!」
「エー」
「エーじゃない、風呂も飯もまだで、おまけに隊長服汚すから嫌です」
「汚さねぇよ脱いじまえば」
「前半聞いてました?」
「ちィ」
「舌打ちしてもダメ」
「すぐ終わらす」
「ダメ」
「何でィ山崎の癖に」
「……」

かわいくねー。
どこか怒りが湧くも、腐っても上司。
胸を押して促すとどうにか体を起こし、山崎も座って拗ねてしまった沖田を見た。
その視線でも感じたのか、訝しげな目が返ってくる。乱された服を直しながら、視線だけ返す。しばらく不満げに睨まれ、それでも山崎が笑って返しているとそのうち挑戦的な視線に変わった。
側の机に頬杖をついて見下してくる。なまじ顔が整っているだけにむかつくやら何やらで、少し見惚れる。
ふと気付き、彼の髪に手を伸ばした。
何、静かな声が聞く。

「血が」
「あぁ」

色素の薄い髪に、誰のとも知れない血がついていた。今日の仕事でのものだろう。

「ほっとけ、どうせ風呂行くから」
「じゃあ今日はちゃんと頭洗ってくださいよ」
「いつも洗ってらァ」
「濡らしただけじゃ洗ったって言いません」

露骨に面倒くさいと態度で表される。可愛くない。
自分の上司で、年下であるけれど勿論腕は確かだ。才能というものを持つ人間に、山崎は初めて会ったように思う。
近藤の人望の厚さや土方の統制力も才能と言えるのだろうが、剣の才ははやり憧れるものだ。

(そして、年下ってのが、むかつく…)
「何でィ」
「いいえ」
「見惚れてた?」
「…そーでスね」

その達者な口もある意味で才能だ。呆れて溜息をつく。

「何考えてんでィ」
「隊長のこと」
「どんな?」

直球。
この人は冗談さえも真っ直ぐに言う。時折羨ましいほどに相手を困らせる。

「…そっスね、剣のこととか」
「ふうん」
「やっぱ、俺も結構長いことやってるけど隊長には追いつけないし」
「それで?」
「えーと、エ、何これ告白強要されてんの?」
「あ、ほんとだ。続けろィ」
「エー…(そんなに表情緩めちゃってさ、)」

ずるいなァ、山崎が呟く。
刀を握った真剣な表情もいいけれど、この顔はそうそう見れない。

「…スキですよ」
「知ってらァ」
「エート」

にやにや笑いながら沖田が近付いてくる。止まらないと思ったときには遅くて唇が重なった。

(…なんで尻尾生えてないんだろうこの人)

能ある鷹は爪ではなくて悪魔の尻尾を隠しているらしい。
ひたりと口腔を探られる。若干変な気分になってきたのは否めないが、さっき中断したのは自分だ。

「…ヤる?」
「…悪い顔〜…」

好きなんだけどね。溜息をつく山崎を沖田が再び押し倒す。

「うー…俺タチがいーな隊長…」
「俺どっちでもいい」
「…じゃあ変わって下さいよ」
「やだ」
「…因みに理由は」
「山崎がタチだとむかつくから」
「…この子むかつく…」

だって好きになっちゃったんだよ、よりにもよってこんな人をさ。

 

 


じゃんけんでタチネコ決めるのかわい〜な〜と思っただけ…。何かの漫画のネタだった気がする。

050214