かぶりも俺の前ではやめてるのかな。

 

 

夜ももう帳を降ろし、真選組の屯所もひっそりと静まり返った。山崎も今日は早々に仕事を終えて、少しでも睡眠時間を取ろうと布団に潜り込む。
山崎のような平隊士は数人で一部屋が与えられていた。殆ど睡眠のためだけのスペースだから山崎はそう気にしたことはない。

もう何人か眠る部屋は静かで、久しぶりにゆっくり取れた時間で山崎は眠ろうとする。
うとうとしかけた頃に、誰かが部屋に入ってきた。あぁ、あいつも仕事終わったんだなと特に気に留めず寝返りを打つ。

「………」

もぞもぞ、と、布団に潜り込む気配。ぞくりと鳥肌が立つ。
ぺたりと背中に張り付いた何かに冷や汗をかき、ためらった後意を決して布団を引き剥がした。

「寒い」
「…ちょッ、うわ、沖田隊長!?な、な、何でここに…」
「布団が冷たいんでさァ」
「山崎うるせェ!」
「あッうわッすいません!」

同室の隊士に怒鳴られ、山崎は慌てて沖田を起こして立ち上がった。力の入らない彼を殆ど抱き上げて部屋を飛び出す。

「寒い」
「…」

沖田だ。どう見ても沖田だ。
殆ど寝てるんじゃないだろうか、とろりとした目で一瞬山崎を見てもたれかかってくる。

「…どうしたんですか隊長」
「寒い」
「涼しくて寝やすい夜じゃないですかー、もう、部屋帰りますよ」
「うー…」
「…」

こういうときばかりは幼い沖田の手を引いて彼の部屋まで連れて帰る。ちゃんと寝て下さいよと部屋に押し込もうとするが手を離してくれない。

「…隊長、俺明日早いんですけど」
「山崎でいいから湯たんぽ代わりにしてやらァ」
「……」

こんなときでも性格は変わらないか。溜息を吐いて沖田と一緒に部屋に入る。
部屋に敷かれた布団は潜り込んだあとは残っていたが、寝入った様子はないようだ。彼が寝た後でここまで布団が落ち着いてることなど見たことがない。

「ほら、隊長」
「布団が冷たい」
「あんたそんなこと言って冬場どうするんですか」
「冬は近藤さんが湯たんぽくれるんでィ」
「まだ秋口ですからね」
「山崎ィ」
「…あーもう、寝るまでですよ〜」

山崎は諦めて、ぺたりと張り付いてくる沖田と一緒に布団に潜り込んだ。自分の煎餅布団と比べて随分上等だなぁなんて考える。
しばらくもぞもぞとした後、沖田は山崎を仰向けに倒してその上に乗りあがった。柔らかい髪が山崎の頬を撫でる。

「…隊長、」
「うるさい」
「…理不尽」

いや役得か。怒られないかなと躊躇しながらゆっくり抱きしめてみる。
既に眠りかけている沖田からは反応はなく、あぁもういいやと髪を撫でながら目を閉じた。

猫みたいだ。
近づけば引っ掻いて、かと思えば気まぐれに擦り寄ってきて手を舐める。くたくたと柔らかい体も俊敏な動作も。

「…寒い」
「…」

山崎の両側に手をついて、静かに唇が降ってくる。彼が動くたび触れる毛先がくすぐったくて身を捩る。
山崎の頬に添えられた指が少し冷たい。寒がっているのはほんとらしい。

(猫っ毛…)
「山崎 やろう」
「…隊長、」
「運動したら暖かくなるんじゃねぇかと」
「イヤ暖かいっつーか熱くなりそうですけど、俺明日早いし」
「寝てていいぜィ勝手にやるから」
「…ずるいなぁ」

また腕から抜け出してしまう前に、手を伸ばして抱きしめた。

(…朝起きれるかな…)

一緒に寝ると気持ちよくて起きれなくなるんだけどなぁ。
戯れのように唇に噛み付かれた。

 

 


041004