いなんて感情じゃ貴方を守れないと知っているけど。

 

 

「…そんなに怒ることかねェ」
「……」

はぁ、と大きく息を吐いて山崎は振り返った。
刀を左手に持ち替えて沖田は右手を振る。手の甲に走った傷から血が飛んだ。
血に濡れた刀を握ったまま、山崎は急いで戻ってきて沖田の右手を手に取る。
自分の刀はその場に捨て置き、さっと布を取り出しながら傷を舐めた。貴それは婦人にする口付けように優雅に。
沖田は呆れて山崎の頭を叩く。

「おいおい、んなことしてる余裕あんのかィ」
「ないかもしれません、隊長が怪我をするなんて一大事ですから」
「あのな、かすり傷だぜィ」
「でも」

びくんと山崎が顔を上げた。刀を拾う時間はない。
沖田を背に回し、その彼の手から刀を借りて迫っていた浪士を切り捨てる。体勢が悪かったのか男の腕を切っ先が掠めただけで、即座に刀を握りなおして再び怒号と共に振り上げられた刀を受けた。

「…折るなよ山崎ィ、こないだ土方さんに貸して折られたからそれ新品なんだぜィ」
「えーと、折ったら俺のをどうぞ」
「何暢気に話してんだアァッ!?」
「うるさい」

甲高い音を響かせて、折れたのは敵の刀だった。両手で柄を握り、山崎は男を倒す。

「…だからよォ、山崎。テメェのことしろよ」
「出来ません。刀すみませんでした」

血を払って沖田に刀を返す。

「何で俺より弱い奴に守られなきゃなんねーんだ。自己満足も大概にしろよ」
「だって」

殆ど縋るような山崎に、誰かの怒鳴り声だとか悲鳴だとかも聞こえなくて、今は戦いの最中だということも忘れそうだ。

「…すいません、反射なんです」
「山崎」
「だってあなたがいなくなったら俺はどうしたらいいのか」

 

怖くて。

 

 

 


040919