触ってみたかっただけなんだ。
「…真選組って、暇なのかねぇ」
まぁうちも暇だけど。
新八に頼まれた醤油を片手に、急がないと言われたのでついでに神楽を回収しようと公園に立ち寄った銀時だが、別のものをみつけて立ち止まる。
どこのおっさんだお前は、
公園のベンチに寝転がり、変なアイマスクをして眠っているのは真選組の制服だの男。顔見てやれ、とそれに近付く。
色素の薄い髪はこの辺じゃ珍しいが天然だろうか。アイマスクを手にかける前に、蜂蜜色の髪を一房手に取った。それはさらりと銀時の手から逃げていく。(…神様は不公平…)
「何か用ですかィ」
「…」パシンと銀時の手を振り払った手がそのままアイマスクを降ろした。何も読めない瞳が銀時を見て、彼は体を起こす。
「…あー…なんだっけ、名前忘れたけど花見の時に」
「沖田」
「あぁ、そう」
「用は?」
「…ないよ」
「なんでィ、じゃあ起こすな」
「寝てたんだ?」
「寝てやした」
「起きてたのかと思った」
「外で熟睡するほど抜けちゃやせんぜ」
「残念」
「…なんで?」ふっと目の前をよぎる風が沖田の髪を揺らした。
不信感はあるのだろうが沖田の表情にそれは表れない。黙っていると拗ねたように少し眉を寄せた。「あー…悪戯しようと思ってたから?」
「お望みならしょっ引くぜィ」
「ううんいいわお仕事忙しそうだから」
「見ての通り暇でさァ」
「あ、じゃあ暇ならなんかおごって」
「すげぇ理屈だ」
(…クスリともしねぇの)にやり、と口端を上げたようには笑う。だけど年相応な笑顔は見られない。
そんなにげらげら笑うほど面白い話はしていないが、かといって殆ど無表情で対応されるのも嫌なものだ。「金は持ち歩かない主義なんでさァ」
「あーいいね若い子は、上司にねだったらいいもんね。俺は貢がされてばっかりでやんなるぜ(給料払ってねーけど)」
「へぇ、そいつァいい、俺にもなんかおごってくだせェよ」
「やなこった」
「ケチなおっさんだ」
「……お、おっさんじゃねーよまだピチピチだよ!ちょっと固まっちゃったじゃねーか今!」
「自覚があるんでさァ」
「いやありません。俺はまだ若いよ」
「じゃあお兄さん、お兄さんなんかおごって」
「…援交みたい」
「注文が多いぜ」にやり、と。
(あ、でも)
今のはちょっと可愛かった。
無意識のうちに手を伸ばし、わしわしと頭を撫でてみる。沖田は不可解な表情を見せたが特に止めようとしない。(変な顔…)
神楽と違って髪が乱れるとは怒らない。男なんだからそれもそうか、と一人で納得しながら撫で続ける。
「旦那、何してんだィ」
「…旦那とくるかー、いやいいけどね、なんかちょっと美味しいなぁそれ、ついでに様とかつけない?」
「変態」
「手厳しい」がくりと手を止め、乱れた前髪を軽く直した。
その手の行き場がなくなって、ついと頬をつついてみる。「…あぁ、じゃあ、ちゅーしてくれたら何かおごっちゃおうかな(金ないけど)」
「あ、やっぱり変態だ」変態にはついて行くなって言われてるんでさァ。
沖田は真っ直ぐ立ち上がり、腰の刀を落ち着け直す。「また今度誘って下せェ」
「…うんそうするわ」
あーあ、なんてセリフを残すのよ。
040919