いたくて会いたくて貴方の所へ来た気がします。

 

 

(あ…やだな…)

強い 視線。
鋭く世界を見つめる瞳。

(瞳孔開いてんじゃん)

今日からこの人が俺の上司。真選組副長の土方さん。
いい男なのに不機嫌な顔をして煙草を咥え、面倒くさそうに書類を一瞥している。

「山崎 退、」
「はい」
「…医学の心得があるのか」
「はい、実家は医者をしています。私も簡単な処置ぐらいなら」
「あーいい、そういう堅っ苦しいの。適当に喋れ」
「…はぁ…」
「…お前よォ、何までなら耐えられる?」
「…」

それがどういう意味なのか考えあぐねて、思わず返事も忘れて考え込んだ。何までって?

「…あぁ悪ィ、うちもこんな人数だけど一応部署分かれてんだ。それで」
「あぁ……耐えられるって?」
「今監察方に人手が欲しい。だけどあそこは人も自分も騙し、時には命だって捨ててもらうかもしれねぇ。家があるなら薦めねぇな」
「…じゃあそこにして下さい」
「……」
「俺 死ぬ気でここに来ましたから」
「…あー…お前当分隊長付き」
「えっ?」
「都合のいい死に場所にするな、死にた きゃ勝手に腹を切れ。介錯ならいつでもしてやんぜ」
「……」
「死ぬ気のやつなんかいらねぇよ、お前は総悟の世話で十分だ」

鋭い目が 俺を睨んだ。

だけど不思議と怖さはなくて、あぁ、なんて言うんだろう、包容力?
立ち上がった副長さんは俺の側を通るときに優しく頭を撫でた。容姿とのギャップに困惑する。

「ついでによォ、」
「?」
「うちの隊長も一緒に丸くしてやってくれ」
「……」

そのまま彼は俺を残し、部屋を出て行ってしまった。
俺はその時知らなかったけど、真選組というのは政府が自主的に作ったというよりも、あとから政府に吸収された集団らしい。
だから、新参者の俺たちには分からない何かが奥にはあるんだろう。

こんな上司、と思ったけど、きっとあの人は誰よりも優しい。
会えてよかったと思う。
もう見えなくなった今、会いたいと思う。

(…あ、これ、一目惚れ?)

怖ッ。
自分の思考回路を疑って、結局仕事内容がよく分からなかったと思い立って慌てて副長さんを追いかけた。
彼が刀を手に、鬼の形相で隊長さんに襲い掛かろうとしていたときはちらっと後悔がよぎった。

でも会えてよかったと、

 

*

 

「…あ…夢オチ…」

目が覚めた瞬間にそれが夢だと分かり、障子から差し込む光で朝だと分かる。
隣で眠る副長さんは眉間にしわを寄せていて、総悟、とかなんとか呟いた。
土方さん、なんて普段はしない呼び方で声をかけてみたり。でも起こすつもりはないので彼も起きない。

(…俺の夢でも見てくれればいいのに)

夢でも会いたいのは自分だけれど。
しばらく不機嫌な寝顔を眺めて、はっと気付いて急いで部屋を飛び出した。朝まであの部屋で寝てしまったのは久しぶりだ。

(くそう、夜って、)

 

もっと長ければいいのに。

 

 

 


040918