「好きです」

授業サボって屋上で寝てたら昼休みになってました、いざ昼飯を買いに行こうと思ったのに。坂田が寝癖だかテンパだかわからない髪を風に遊ばせてあれ志村じゃんって、マジ?思わず俺も出歯亀する。野次馬の次は出歯亀で、次は馬鹿になるしかない。馬が被るな。

「ありがと」

ごめん、ってまた、こないだと同じセリフ。何であいつもてんの?さらさらストレートだから?坂田が口を尖らすから、ストレートがもてるなら俺だってもててる、確かに事実を言ったはずなのに、山崎は山崎だもんと最悪の理由で否定された。

「…先生が、先生だから?」
「違う」

あ、あの人煙草吸ってる。流れてくる覚えた匂い、さっき坂田がふざけて持ってきた俺と高杉のラブシーンを描いた漫画を思い出して、俺は、ちょっと平静ではなくなった、色んな意味で。死にたい、今飛び降りて?

「彼女いるから」

────ショック。だから俺、頼むよ。なんでショック受けちゃうの。

 

*

 

「…煙草ってうまい?」
「…聞くより試せ」

高杉は何も聞かずに一本差し出してくる。ほとんど深夜みたいな時間の公園、ふたり。こういうことしてるから噂されるんだなぁと他人事みたいに思いながら、煙草をもらう。商売手つきで火をつけてもらって、吸い方もなんもわかんないから少しだけ吸った。匂いが違う。高杉のは甘い。先生のは苦い。

「よぉーす」
「うす」
「あらぁ山崎ちゃん煙草?」
「フカシフカシ」

高杉がぺっぺっと手を振った。だらしないヤンキーみたいな柄の悪さで加わったのは坂田で、高杉から煙草を拝借する。

「…俺さっき、土方見ちゃった」
「まじ?」
「それがさぁ、ラブホから出てくんの、カワイ〜の連れて」
「…彼女いるってゆってたもんね〜〜」
「俺がいるのに!って怒らねえと」
「誰が!」

オタク女子をあおっているのは坂田らしい。通りで俺がもてないわけだとぼやけば、ふたり一緒に否定してくれた、関係ないからだって。じゃあ俺はどうして女に縁がないんでしょうか。

「山崎はなぁ〜…なんつぅか、色々足りねぇよな」
「色々って何!」
「さぁ」
「けっ…」

ぷかぁと煙を吐き出してみる。終わった後も煙草吸って、彼女に怒られたりするのかしらん。いや、彼女が嫌がれば吸わないのだろうか。

「…おいテメーら」
「あ…センセー」
「勘弁しろよ〜…」

頭を抱えて立っているのは、土方だった。

 

*

 

謹慎、と聞いて母親から平手打ちを食らった。いい腕だ、世界を狙う気かも知れない。

「…おいそりゃあ…大丈夫か」
「うちの母さんは一発でやめるってことを知らないんですよ…」

よく殴られる奴だなとあきれられた。あんたのせいじゃないか、少なくとも前回は。両頬腫らす俺と先生、俺の部屋。オタク女子が喜ぶシチュエーションで俺は緊張している。勘弁してほしい。

「…高杉はともかく、なんでお前まで」
「……あんたが」
「あ?」
「…いや…別に、ちょっとカッコつけてみようかと」
「…カッコよくもなんともないから今後はやめること」
「うぃす」

でもあんたはカッコいいんだよ、って、あ〜告白みたいですね俺。弾けろ心臓。

「…それよりさ、先生彼女とラブホ行くの?」
「はっ、あぁ!?」
「あの日坂田が見たって」
「………」

死にたい、頭を垂れて小さく呟く、今の声を俺しか聞かなかった、嬉しくなって混乱する。ちらっとこっちを見た土方の顔は俺に負けず劣らず赤くて笑ってしまった。

「あ〜…口止めしに行かにゃ…」
「『ブルーシャトル』」
「やぁめろッつの!」
「あははっ、俺いっぺんだけ行った」
「くそ〜…夜中にうろついてんじゃねぇぞ…」

嘆く様はどこか可愛い。…彼女はどれだけ可愛いんだろう。先生俺やばいよ、あんたのことばっかり考える。煙草を吸わなくてもあんたは煙草臭い。

「…彼女ってどんな人?」
「…他にしゃべらねぇなら教えてやる」
「高杉よりは口かたいよ」
「……教え子」
「…はい?」
「教師になって1年目に、会った奴」
「………変態」
「うるせぇよ!」

思いも寄らぬ告白に、開いた口がまた閉じた。息だけはどうにか、あぁ、もう何も喋れない。絶対ボロが出るから。

「…まぁ…なんだ。明後日か。ちゃんと反省文持って来いよ」
「うぃ!」
「…お前もてねえもてねえってぼやいてるけど、好きな奴はいねぇの?」
「────保健室の、陸奥センセー」

平気な顔で大嘘を吐く。彼女にはホテルブルーシャトルでふられました。

 

 

注目は陸奥センセー。銀さん書くのが楽しかった。

060513