07:「とける」(土山)

「あ〜〜〜…死ぬかも…」

ぐったりと机に体を預けた土方を、山崎は苦笑しながら団扇で扇いだ。体育の終わったばかりで、着たくないと文句を言った土方はシャツの前が開いている。

「土方さんがそんな格好したってジャニーズにはなれやせんぜ、あ、ホストならなれるけど」
「ならねーよ」

沖田を怒鳴りつける気力もないらしい。体育をさぼっていた高杉は悠々と歩いてきて土方を笑う。

「杉くんそろそろ体育出ないとやばくない?」 「ンなもん医者にちょちょっと書かせりゃいいだろ」
「も〜…目だって治ってる癖にィ」

土方を扇いでいるが、山崎だって暑くないはずはない。団扇の位置を固定したまま首筋の汗を拭う。

「…ほんと、暑いですね。溶けそう」
「…」
「『いっそ俺と溶け合うか?』」
「! 高杉ッ」

土方の後ろで声色を使って囁いた高杉はすぐさま逃げ出した。椅子を倒して立ち上がり、土方はあとを追おうとしたがやめる。椅子を戻して座り直し、

「暑い…」
「はは」

土方を見ているとほんとに溶けそうな気がしてくる。山崎が涼しげなので土方は顔をしかめた。

「お前暑さ平気?」
「てかうちよりましですもん」
「あ〜、山崎んちサウナだよな〜」
「…お前いつ山崎んち行ったんだよ」
「やきもちですかィ、男の嫉妬は見苦しいぜィ」
「うるせーよ!そんなんじゃねぇっつの」
「またまた。山崎、土方さんうちに上げてやりなせェ。大丈夫、あの暑さの中じゃ土方さんも襲う気なんて起きねぇから」
「何の話だッ」

沖田は沖田で汗もかいていない。それもまた土方をいらつかせ、暑さが増すような気がする。

「…沖田さん、今日何日でしたっけ」
「ん」

とっさに出なかったのか沖田は黒板を指さした。今日の日直は新八なので正確だ。日付を見て山崎は溜息を吐く。

「ほんとにとけちゃえればいいなァァ〜」
「どうした?」
「いや、そろそろこわ〜いおっちゃん達が集金に…」
「…」
「『俺が守ってやる、俺のところにこい』」
「〜〜〜〜総悟ッ!!」

土方が立ち上がった頃には沖田は矢のように飛んで逃げている。自分が言ったわけでも言われたわけでもないのに土方は真っ赤だ。
土方は事情を知らないが、山崎は幾らか借金を抱えているらしい。それは母親の作ったものだが、その当人は息子をおいて逃げたとかでいないようだ。

「…土方さん、それほんとですか」
「あ…いや、」

いくらなんでも山崎だって土方が言ったのではないとわかっている。そのことをわかりながらも、土方はなんと答えていいかわからなかった。

「怖くなったら土方さんのとこに逃げて行っていいですか」
「…おぅ」
「えへへ、」

山崎がへらっと笑って、土方は何となく照れて顔を背ける。
山崎はストレートだ。直接的で土方は時々困る。
溶けてしまいそうだ。それともすっかり溶かされてしまっているのかもしれない。

「…暑いな」
「そーっスね」


050721