05:かげろふ(三笠) 今よりもう少し、あなたへの思いが強くなかった頃。
「かげろう?」 うとうととしながら笠井は布団に潜り込んだ。三上は読んでいた雑誌から顔をあげるが、笠井は体ごと壁へ向いている。 (陽炎…?) しばらく待ったが反応はない。寝てしまったらしい。話しながらとは器用なやつだと呆れる。 「…陽炎、ねぇ」 三上がイメージとして持っているのは蜃気楼のような錯覚だ。そんなものになりたいなどと言い出す笠井の気持ちはとてもじゃないが分からない。 (陽炎、に、なりたい…) 俺の前から消えたかったんだろうか。 (…なられたら、困る…) 丸くなって眠る笠井を見る。その体勢のせいでベッドがよけいに狭くなるのだ。 「…笠井って、わかんねぇ」 三上はまさかかげろうが蜻蛉であるとは思わない。蜻蛉であるとわかったところで三上に理解は出来ないだろう。 笠井はカゲロウになりたかった。 「(…俺も寝よ) かっさいさん、お隣開けて」
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