01:蝉の羽(土山)

じりじり照りつける太陽が山崎の肌を焦がした。一応木の影には隠れたのだが、右腕が入りきらずに日差しを受けている。どうせ焼けた肌だから今更日焼けを気にする気はないが、それでも片腕だけ焼けたらどうしようかと思った。

(…まだカナ〜)

頬を汗が流れていく。木漏れ日がその後を追ってちらつく。眩しさに目を細め、視線を落とす。足元に蝉の羽が落ちていた。体の方は見当たらない。意識すれば、遠くにわずかに鳴き声が聞こえた。蝉も終わりが近い。それなのに夏はまだまだ長そうだ。
羽を壊さぬように足を引く。透けた薄い羽、こんなもので空を舞うのだから、昆虫とは神秘だ。人は重たい道具 を使ってどうにか引力に逆らう。耐えきれずに汗が背中を流れた。

(喉乾いたな〜。アイス食べたい)

何度も買いに行こうと考えたのだが、コンビニは少し遠い。自分が離れた間に来たら、と思うと行くタイミングを失った。もうすぐだろう、と何度も思ってしまう。そろそろ終わらないかと。多分もうすぐ。

(………)

絶対もうすぐ。背中の後ろのグランドは閑散としている。さっきまでサッカー部が練習していたようだが、いつの間にか消えていた。────いつから待っているのだろう。いつからここにいるのかがわからない。
自転車がしゃーっと前を通り過ぎる。山崎を不審気に見ていった。

(……制服じゃん、俺…)

れっきとしたここの生徒だ。この炎天下に立っていることが不審だったのだろうか。それならば納得できる。自分でも異常だと思う。

(…溶けそう)

肌を滑る汗と太陽。服の中に熱がこもり、そこだけサウナのようだ。
呼ばれた気がして振り返る。何処かで蝉が飛び立った。空気を叩く羽音が耳に残った。


⇔09:金魚の軌跡
051017