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パタパタと傘を叩く雨の音が以前とは違いすぎて、雨と言うものがよくわからないと思った。

傘を差した誰かがそこでこっちを見ている。
高杉は気付きながらも、目を閉じたまま死体のようになっていた。汚い雨の路地に直接座り込んでいるのでもう体中が雨を含んでいる。汚れていた肌はその雨で少々洗われたんじゃないだろうか、自分で皮肉ってみても笑えない。
傘は雨に叩かれ続けている。飽きずに高杉を眺めている誰かを見てやろうと薄く目を開けた。

「何だ、生きてんじゃん」
「…銀時」

どっこらしょとわざとらしく吐き出しながら、傘を差した銀時は高杉の前にしゃがみこんだ。着流しの裾がじわりと汚れた水を吸い上げる。傘から弾けた雨が高杉に飛んできたが気にならない。

「いやー死んでたら俺が埋めるべきなのかなと思ってめんどくさかったんだよねー」
「…海にでも捨てろ」
「遠いじゃん海。スクーターに紐つけて引きずろうか?」
「ケーサツに売ったら金になんじゃねぇの?」
「売るかよ」
「…後悔するぜ」
「もうしてんだよなァ」

銀時が雨の中に手を延ばした。雨を少しずつ染み込ませた腕はそのまま高杉の頬に触れる。

「ほどけてんぜ」
「…あぁ、」

銀時が包帯を引っ張ったが雨できしんで動かなかった。きつくなった包帯に顔をしかめたつもりだがあまり変わらなかった。これ以上ないほどに顔が強ばっている。

「お前今包帯巻いたらミイラ男だな」
「へっ」

高杉は銀時の足元を見ている。渦を巻く着流しは轟々と雨を吸い込み汚れていく。
雨は傘を叩き、不規則なメロディを奏でて高杉を取り囲んだ。

「…昔も」
「ん?」
「雨に濡れて血を流した」
「…そうだな」
「傘なんざ持ってらんねぇから、どんなに強い雨でも」
「あぁ
「お前の頭なんか別人みたいになって」
「もしもーし、勝手に回想シーンやめてー死にそうだからー」
「ヘッ、死んでられるか」
「あーそー?手を貸す?」
「借りを返すの間違いだろ?」
「ほい」

包帯を離した手を差し出され、それをしっかり握る。銀時が立ち上がって着流しの裾から水が垂れた。引っ張られる勢いで立ち上がる。

「男前じゃん、スゲー顔。どーしたの」
「酔っぱらいの天人にわけわかんねぇ喧嘩売られたんだよ」
「腕鈍ったんじゃないの〜?」

笑いながら高杉に肩を貸し、腰を支えて傘を持ち直した。ゆっくり雨の中を歩き出す。

「あいつら段々増えてきやがる。ざけんなよ、何人斬ったかわかんねぇ」
「アレ、もしやあのニュースお前じゃ…大騒ぎだぜメディア」
「知るか。エモノ折られるしよー」
「アラアラ。木刀いる?神楽に折られちゃった奴でカレー臭いけど」
「捨てろ」
「イヤなんかに使えるかなーと」

雨が傘を叩き、その音が体を貫く。体は予想外に重い。髪からの滴が頬を伝った。

「…銀時、お前何してた」
「探してた」
「…」
「俺はあんな斬り方お前しか知らねぇからよ」
「かっこつけやがって」

雨が世界を閉じこめているこの間だけ、昔に戻ったような気がしたのに、傘がずっとそれを邪魔をしていた。

 

 

 


10888青桐氷魚様ー。
銀高?銀高だと思いこんで読んでみてよ、なんとなく…なんとなくそれっぽいから。

050501