裏 路 地 に て

 

「───ま、珍しい。こんなところを真選組の隊士さんが歩いてるわ」

擦れ違い際に聞こえた言葉にふたりは顔を見合わせた。
ぷっとパー子もとい銀時が吹き出し、ヅラ子もとい桂がその後頭部を叩く。多少見慣れたとは言え、やはり似合いすぎる女装は昔を知る身としては愉快でしかない。

「…先行っとけ、知り合いだからからかってくる」

ちらりと見た隊士を見て桂の肩を叩き、買い出しへ行く途中の店の者の方へ押し出した。
止めようとしたのを無視して真選組の隊士を追う。\かまっ娘倶楽部の主人に捕まって変貌を遂げているとは言え、お尋ね者である桂が見つかっては不味いだろう。万が一店に迷惑がかかりでもしたら今度こそ殺されかねない。

しかし、昼間とは言え真選組がかぶき町にいるとは珍しい。からかわれて店に引っ張り込まれそうになっているのに笑い、足を早めて彼の腕を取った。
びくんと振り返った彼が目を見開き、何か言いたげな口を塞いで店と店の脇道へ引きずり込む。

「ちょっとおニーサン、こんなトコで何してんの」
「そッ…それはこっちのセリフですよ銀さん!」
「やーねパー子って呼んで」
「パー子…」
「天然パーマのパーだからな」
「そんなのはどうでもいいです」
「何してんの山崎くん」
「…俺は仕事ですよ。あ、もしかして銀さん…パー子さん?もお仕事ですか?転職しました?」
「不吉なこと言わないで下さい。これには深い事情があってだな、俺だって進んでこんなカッコしてるわけじゃねーんだよ」
「見事に化けますねぇ」
「そう?美人?」
「美人ですよ」
「じゃあおネーサンとイイコトしよう」
「ッ!?んーッ」

山崎の顔を捕まえて強引に唇を重ねる。歯列をわって下を侵入させ、抵抗する両手も捕まえた。文句なら後で聞こう。散々好き勝手に動き回り、解放したときには山崎は力なく銀時に寄りかかった。俯いて何か恨み言を呟かれる。
銀時はその頭を抱えて顔を上げ、しっしと桂を追い払った。何見てるのお前人が折角逃がしてやろうとだなぁ。何をぐずぐずしてるのか。

「…何プレイっスか」
「やだープレイって。やりたい?」
「結構です。…口紅ついた」
「あ、ごめん」

唇を拭って山崎は顔を上げる。銀時の口元に手を伸ばし、唇の淵をなぞった。

「…何?」
「乱れてる」
「…」

バレるかな。銀時が呟くのを聞いて山崎は溜息を吐き、それから呆れるように笑った。ポケットを探って出てくるのは化粧用の細筆と口紅らしきもの。

「色…大丈夫かな」
「何それ」
「仕事道具ですよ。こっち向いて」

細筆を前歯に挟んで口紅の蓋を開け、器用にそれを持ったまま銀時の顎に手を添える。ひたりと筆先が唇に触れ、くすぐったいような感触に一瞬身震いした。
真剣な山崎の表情は銀時を見てはいなかったが、どこか寒気に似たものを背筋に感じる。

「口開けてくれます?少し…ハイ終わりです。ちょっと馴染ませて」
「…慣れてんねー。山崎くんは女装癖でも?」
「仕事上」
「ふぅん、見たいなぁ」
「見せたら仕事にならないので。…ところでパー子さんのお店は?」
「ん?かまっ娘く…」
「どうも」

ニコリ。
山崎が笑いながら口紅をしまう。
それじゃ、と歩き出しかけた山崎を銀時は反射的に捕まえた。

「…すんませーん、仕事中なんで」
「いやいや、今の質問なんですか」
「だから、俺仕事中なんですって。…『お友達』に夜に行くとお伝え下さい」
「…山崎くん」

捕まえた腕を引いてぎゅっと抱き寄せ、首筋に唇を押し付ける。

「…って直したばっかりなのに!」
「あ、ごめん」

 

*

 

「…山崎ィ」
「はい?」

別にいいけどよ、沖田が珍しく言葉を濁す。何かと聞き返せば指を差され、

「首」
「…!!」

直す方に気を取られてこっちを忘れていた。我ながらバカなことをしたと思う。
沖田でよかった、とも思ったがそれがどっちへ転ぶのか考えて不安になった。

「まぁいい。桂の目撃情報入ったからテメェ見て来い」
「…はいよ」

しかも結局見つかってるのか。色々と損した気がして顔をしかめる。

(…客としていくと内部がわかんないしな〜…)

何より接待されるのは、山崎の性質的に合わない。
と言うことはオカマになれと。女装より難しい気さえする。

「…副長がオカマになればいいのになぁ」
「…!!」
「…あぁッ、う、うそうそっ、待って隊長ーー!!」

そんなに目を輝かせて!!
どうせとばっちりを食うのは自分なのだ、山崎は必死で土方を捕まえに行く沖田を追う。
あの人はまぬけだから放っておくとすぐに沖田に捕まってしまうだろうとか切腹ものなことまで考えながら、山崎はどうにか沖田に追いついた。
がっしり腰を捕まえて、沖田は諦めたように溜息を吐く。

「…ん?」

腰の辺りの山崎の頭を捕まえ、沖田は体をひねって目を合わせた。嫌な予感がする。

「俺は場所まで言ってないぜィ」
「あ」

 

 


銀山とすべきかパー山にすべきか迷うのですが。
あれぶっちゃけあれです、口紅は使ったことないのでその辺は目を瞑っていただけたら。
ネタの発端ははにかみだったり…ね…。

041127