夏 の 夜 の 夢 ?

 

「ふくちょおぉ〜…」
「…」

びっくりした。びっくりした。
そんなことは表に出ないように土方はぐっと痛いほどに拳を握る。
…びっくりした。自室の前でシーツのお化けに出くわした土方はしばらく固まっていた。
もぞもぞと動くそれがようやく端を見つけて顔を出し、「ふくちょおぉ〜…」に至る。

「や…山崎…人の部屋の前で何やってんだ」
「沖田さんに肝試しだっていきなりシーツかぶせられて…」
「あいつ…」
「…あの…副長」
「ん?」

山崎に手を貸して立ち上がらせる。シーツの中で格闘して乱れた寝間着の胸元を直しながら、土方と繋いだ手は離さない。

「…今日一緒に寝てもいいですか…?」

ちらりと様子を伺うように山崎は土方を見た。月明かりに照らされた肌は青白い。

「…山…」
「沖田さんが怖い話ばっかりするから俺…」
「…厠にゃついてってやるから自分の部屋で寝ろ」
「だって天井に変なシミがあるんですよっ!?昨日まではなかったのにっ!」
「どうせ総悟のいたずらだ」
「副長〜俺このままじゃ寝れませんー!」
「俺が知るか」
「そんな酷いこと言わないで下さいよ〜」
「……俺が何しても文句言うなよ?」
「は、はいっ!」

 

*

 

「ほんとだって!確かに見たんだよ!」
「へ、部屋の中まで見たわけじゃないんだろ?大体副長が」
「俺がどうかしたか?」

「「「 出たーッッ!! 」」」

「…」

隊士達が一斉に部屋の奥へ逃げて土方は呆気にとられた。みんなで身を寄せあっている姿に溜息を吐く。
朝早くから熱弁しているから何かと思えばまた怪談か。今朝は妙に気だるいというのに無駄に疲れた気になる。

「ふ…副長ですか?」
「俺以外の誰に見えるんだよ」
「ほ、ほら、だからお前の気のせいだって言っただろ」
「でも俺は確かに見たんだって!」
「何の話だ?」
「その…こいつが昨日の晩、…副長が妖怪に食われてるのを見たって言うんですよ」
「はぁッ!?」
「な、何かが副長の部屋でかがみこんで何か食べてたんですよ!」
「……くだらねぇ。俺は朝まで寝てたぞ。夢でも見たんじゃねぇのか?」

「でも」
「夢だ夢!」

実際のところそれは恐らく山崎だが勿論土方は口にしない。あれは食われたと言うより逆なのだが。

「おはよーございま〜す…」
「なんだ土方さん今日も生きてるんですかィ」
「朝っぱらから失礼な奴だなお前は」

沖田と一緒に入ってきた山崎は疲れた様子で壁にもたれ掛かる。

「どうした」
「はぁ …殆ど一晩中沖田さんが怪談を続けてまして…」
「…は?」

くわえた煙草に火をつける前に土方はそれを落としてしまう。話が聞こえた隊士があっと山崎を指差した。

「一晩すすり泣いてたの山崎か!?」
「起きてたなら助けてよ〜当分怖くて寝れない…」
「そういやあの話まだ途中でやした」
「もういいです!」
「厠に入り用を足していると視線が…」
「ぎゃー!」
「…」

山崎が耳を押さえて沖田から逃げていく。
土方はふらふらと壁に身を預けて頭を抱えた。じゃあ昨夜のは誰だ。

「…夢!夢だ全部!」

正体不明の気だるさも知らないふりをして頭を振った。

 

 

 

 


だいさんじゅうさんくんを見て。
眼鏡の退とかにも構いたい。だめだ萌えすぎる。

040809